神の手

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 空はまだ青さを残しているし、朝からそんなに時間は経ってないことを示している。だけど、明日には違う泰子が目の前にあらわれるし、そして、違うあたしがいるはずで、今いるあたしは今日で存在しなくなる。  そういうことを考えるだけで何をどうすればいいのかわからなくなる。  最近、ひとりになるとそればかり考えている。  やっぱりあたしはゲームのキャラみたいに明日またスタートして、ロールプレイングのように選択を続けながら夜になるとエンディングを迎えるんだろうか?  そして、あさってもーー。 「ねぇなぎさ、あたしはね、神の手になるよ」 「はあ? 何?」 「神の手を持って、自分ですべてを自由に動かして見せる! そんな感じかな」 「さっきは……決められたレール通りっていったじゃん」 「なんのこと? さっきってーーなんだっけ」  なぎさは笑った。 「えーっと、だからさ」 「さっきはさっき、今は今! 時間にとらわれてたら何にも起こんないよ」 「それってずるくない?」 「さあ、でもさ、本気で変えたいなら、ぜんぶ何もかも本気で壊すくらいになんないと、現実って変わんないよ、そのくらいじゃないとさ、中途半端じゃなんにも動かない、ってさ、そう思うわけ、あたしは、パンパンパーンって変えちゃいたい、ってさ」 「あたしより本気で何かやらかしそう」 「そう、ゲーマーやってるほうが被害者が出ないって」 「怖いよ、泰子ちゃん、愚痴こぼすだけにしようよー、あたしやだよー」 「はあい、なぎさちゃんのいう通りにしようかな、では、あたしはゲームの中で破壊神でもやってくるわ」 「うん、さよなら、明日も相手してね」  さっきから強風が吹きはじめた。風に煽られて髪はバサバサになっていく。まだ3月で指先に冷たさも感じている。  暑いと思ったコートも夕暮れ過ぎる頃にはちょうどいい暖かさに感じはじめる、そんな曖昧な季節、あたしは今、自分を感じている、不安でここが嫌でたまらないのに、どうすることもできない、またまた今夜もリセットするだけ、そして明日も。  だからって世界一不幸じゃない、逆に幸せなはずもない! それは断言できる。  だって哀しい、だって苦しい、今すぐに逃げ出したい、本気でホントに!  それなのにそれなのに、何も変わらない、悔しいくらいに延長戦上の毎日があたしを狂わせていく、そして泰子にはこんな気持ちなんてコテンパにやっつけられてしまう。  明日はまた泰子とお友達を続けるしかない。  それを哀しいことと受け止めるか、それ以外の何かで転化するか、人それぞれ様々なんだろうけど。  だれに助けを求めていいのかわからない、その答えも考えも、自分勝手にすぎないのかもしれない、そんな思考の繰り返しになる。  だけど生きることは止められない、抗えない、逆らえない、やっぱり強制のように、生きていくしかない、脱落なんてできない、そういうのを運命っていうんだよね、たぶん。  何かを制限される生活、強制的な何か、身動きもとれなくなる、だけどごまかしながらやり過ごしていく、それしかないよね、だってあたしはそれでも自由に生きてるっていいはりたいからさ。  この世界ではそれでいいんだろう、それでしか生きられないし、やっぱり普通じゃつまらない、明日の朝陽はピンク色とオレンジのミックスがいい、そんな太陽を望んでみてもいいかな! 
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