雪の貌《かたち》

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「皆、貴女には嫉妬していたのよ」  同じ妻でも世間の評判になどめったにならなかった私には良く分かる。  注意を引かない人間の噂など誰もしない。あの人の弟子たちが彼女をことさら悪し様に言い立てたのは、自分が師にとって少しでも価値ある存在だと思いたい彼らにとって彼女が見過ごせない相手だったからだ。 「どちらでも私には同じこと」  呟いた彼女の元に子供が駆け寄ってきた。 「これが一番綺麗な六角……あれ?」  小さな掌から光る滴が震えながら流れ落ちる。 「残念だったわね」  彼女は優しく幼い息子の髪に降り積もった雪を払い落とした。 「じゃ、また」  彼女から穏やかな笑顔で告げられて初めて別れ道に来ていたことに気付く。 「お気を付けて」  こちらも精一杯笑顔を作って母子に頷いた。  雪の降り続く道を私はただ一人、もう自分以外は帰る者が誰もいない家に向かって歩き出した。(了)
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