第1話 チュートリアル

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第1話 チュートリアル

今、俺がいる場所はいわゆるバーチャル空間というものだ。 果て無き暗闇を上下に配置された青白い格子状の線がぼんやりと照らす。 その無機質な空間で存在しているのは、俺と目の前の女性ぐらいなものだ。 「ようこそ、いらっしゃいました」 女性は艶やかな長い黒髪をさらりと流し、恭しく頭を下げる。 「私の名前はドリーと申します。チュートリアルの間、私がご案内させていただきます。どうかお見知りおきを」機械的な文章とはにつかない人間的な口調が彼女―――ドリーの紅い唇から聞こえる。この艶かしささえプログラムなのだから技術の進歩はすさまじい。 「それでは、お名前を確認します」そう言った後、彼女は左手をすうっと横に動かす。すると白い枠のようなものが表示される。 木戸 保(きど たもつ) 俺の名前がそこに映し出されていた。 「木戸保さまでよろしいでしょうか」 「ああ、あってる」俺は頷きながらそう答える。 「承知しました。それでは木戸保さまのデータをダウンロードいたします。その間に、僭越ながらわたくしがこの世界の簡易的な説明をさせていただきます」 「わかった。頼む」 「はい。それでは、説明させていただきます。ここはわがイノベーションカンパニーが提供する仮想空間となります。木戸保さまはこの度、わがイノベーションカンパニーが制作する、ダイブ型ヴァーチャルリアリティーゲームのゲームテスターに選ばれました」 ドリーの口調に苦笑する。俺たちは参加する気もなかったのに、あいつによって無理やり選ばれたんだ。 「木戸保さまにプレイしていただくゲームは『グランドアドベンチャー』です。地球と同程度の広大な空間を心の赴くままに冒険していただきます」 テストプレイは行動範囲が制限されているって聞いているが…どちらが正しいのだろうか。 「ゲーム内の詳しい説明は、ゲーム内にてコンダクターにお問い合わせください」 コンダクターであろう友の顔を想像して、失笑してしまう。 「ではこれから、アバターで過ごされる際の注意点を説明させていただきます」一呼吸おいてドリーは続ける。「仮想空間内では脳の電気信号をアバターに反映して活動していただきます。現実の生体は休眠状態で、別状はありませんのでご安心ください」 ここに入る前にも聞かされた説明をもう一度繰り返される。 「アバターは現実と可能な限りリンクさせるため、生体とほぼ同様の形に再現されています。無理な運用は脳内にダメージを与える可能性があるため、おやめください」 危険はないからと話す友人の無責任な笑顔を思い出す。 「アバターに関する疑問点は、左腕に装着されている端末にてオプションを参照してください」 そう言われて左腕を見る。いつのまにかディスプレイを搭載した腕輪型の端末がついている。ディスプレイに触れると、イノベーションカンパニーのロゴが表示され、そのあと『通信』や『オプション』といった項目が表示される。 「説明は以上です。ダウンロードが終わるまでのしばしの間、お待ちください」 彼女の前にダウンロードの進み具合が表示される、その数58%。まだまだだ。 俺は長い暇をつぶすため、どうしてこうなったかを思い出すことにした。
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