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空気
「ねえ、なつき…。」
まなみはなつきを見て、
「ここはどう?」
と訊いた。
「ん、何かいい物件あった。」
なつきは、まなみに近付いた。
「ここなんだけど…」
と、まなみは携帯の画面を見せた。
《コーポ・Tigre blanco(ティグレ・ブランコ)》
と、アパート名が載っている。
《3LDK・最寄り駅から徒歩5分》
と書いてあった。
「うん、なんか良さそうね。」
となつきも気に入ったようだ。
━━数日後、二人はアパートを管理している不動産屋を尋ねた。
《高日不動産(たかにちふどうさん)》
と書かれていた。
二人は、中に入った。
「どうも、いらっしゃいませ。」
不動産屋の男性は、
「社長の高田です。」
と言って、名刺を差し出して来た。
まなみが名刺を受取って見た、
《高日不動産・代表取締役:高田純一(たかだ・じゅんいち)》
と書かれていた。
「あの…。」
まなみは不思議そうな顔で、
「高田さんなのに、高日不動産なんですか…?」
と訊いた。
「そうなんですよ。」
高田は二人を見て、
「会社の登録する時に、高田の“田”の“縦棒”を引くの忘れちゃったんですよ。」
と答えた。
「え?」
「え?」
二人は、目を丸くした。
まさか、そんな大事な時に、自分の名前を間違えてしまうとは…。
「ねぇ、なつき、この不動産屋さん、大丈夫かな?」
まなみは小声で、なつきに訊く。
「う、うん…。」
なつきも心配な様子。
━━二人は、例のアパートを見せて貰う事にした。
比較的新しい物件で、しかも、内装リフォームも済んでいたので、かなり綺麗な部屋だった。
「なかなか、綺麗だね…。」
と、まなみは言った。
━━しかし、表情は明るくなかった。
「そ、そうね。」
なつきも頷いた。
━━なつきの表情も明るくはなかった。
「ここに…するの?」
まなみが訊いた。
「う、うん…。」
なつきは、ぎこちない返事をした。
二人は、この部屋に決める事にした。
━━不動産屋からの帰り道…。
「ねぇ、なつき…」
と、まなみが言った。
「ん、何?」
なつきはまなみを見た。
「気のせいかも…知れないんだけど…。」
と、まなみは言葉を濁した。
「何か、空気が重かったよね…。」
と、なつきが言った。
「え!? やっぱり!」
と、まなみは驚きを隠せなかった。
「うん。」
なつきは頷いた。
どうやら二人共、あの部屋の空気が違うと感じていたようだ。
「なら、なぜあの部屋に決めたの?」
と、まなみは訊いた。
「まぁ、まなみと一緒なら、何とかなるかと思って。」
なつきは、悪戯っぽく笑った。
「うん、そうだね。」
まなみは微笑した。
━━そして、東京に戻った二人は引越しの手配をした…。
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