あなたに会わせたい

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あなたに会わせたい

                「白鳥さん、あれ、どうしたの?」 「ああ、ふきのとうさん、もう、あなたが顔を出す頃になったのね」  白鳥の目から涙がこぼれ、さようならと言うなり、北の空へと飛んでいきました。   「どうして、涙を流していたのだろう」 「知りたい?」 ふきのとうに話しかけてきたのは、青い小さな花たち。 「ボクたちはイヌフグリ。白鳥レダの涙から生まれたんだ」  白鳥レダは、冬の訪れとともに、ここにやってくるんだ。でも、レダがここに来る頃、この辺りは枯れた草に、波打ち際に集まるガラクタに、甲高い風が通り抜ける空。そう、さびしいだらけだね。  あるとき、レダは誰かさんが作った話を見つけ、それを読んだんだ。そして知ったんだ。レダがこの地から離れた後に訪れる季節の美しさを。  でもレダは、この大地に春がおとずれるころ、北の大地へ帰らなくては行けない。  せめて、このお話を作り上げた誰かさんに会いたい。そう、願っていたのだけど…… 「で、その誰かさんは、誰?」 「……さあ、ボクたちもわからないんだ」 「じゃあさぁ、そのお話を聞かせてもらえるかな?」  イヌフグリは話し出しました。  雨降る日に田んぼでおこる大合唱。  真っ青な空にもくもくとわきたつ雲。  田んぼにあらわれる黄金のふさ…… 「ぼくも、知らない光景がある」 「そりゃそうだ、そうだ、そうだ。その頃には、おまえさんたちはいないからな。からな、からななな……」ふきのとうの頭の上から声がしました。 「ヒバリ! この話をつくりあげた誰かさんを知っているの?」 「ボクたちは、その誰かさんを、レダに会わせてあげたい」 「その誰かは、ツバメのゲン、ゲン、ゲン。まだ南の彼方、彼方、彼方たた……」 「ツバメのゲンだね。このお話をつくりあげた誰かさんは」 「ボクたち、レダが落とした涙をたどって、花を咲かせていく。そして、レダに追いついて、お話をつくったのは、ゲンだと教えてあげに行く」  そう言うなり、イヌフグリは青い小さな花を次々と咲かしていきます。 「おれさまは空高く飛び、飛び、飛び、ゲンが来るのを待とう。待とう。待とううう……」  冷たい日、暖かい日が代わりばんこにやって来て、ふきのとうは背か伸び、黄色い花を咲かせます。 「ゲン、まだか、まだか、まだか。まずい、まずい、まずい。イヌフグリの道しるべ、消える、消える、消えるる……」 「おーい、ビハリよぅ、どうしたんだよぉ」  空高くとんでいるビハリにどなるのは、タンポポ軍団です。ふきのとうはタンポポ軍団に、これまでのことを話しました。 「ふーん、なるほどね。よし、俺たちも力をかそう」  タンポポ軍団は花を咲かせ、綿毛を飛ばします。風にのって飛んだ綿毛はやがて花を咲かせ、新たな道しるべになります。  さらに暖かくなり、いろいろなん花が咲いていきます。  うめ、もも、あんずにすみれ…… 「ゲン、まだか、まだか、まだかかか……」  さくらの花が咲きそうになってきました。それとほどなくして空を横切る黒い影。 「ツバメのゲン、どこだ、どこだ、どこだだだ……」 「ボクを呼ぶのはだぁれ?」 「ゲン、お前に合わせたい者いる、いる、いる」 「君がゲンなんだね。白鳥のレダが君に会いたがっている。イヌフグリとタンポポ達が、君に道を教えてくれるよ」 「ボクに会いたいと言っている白鳥のレダ、青と黄色の花の道しるべに飛んでいけばいいんだね」 ゲンは空を滑るかのように、北へと飛んで行きます。 「会えるだろうか、だろうか、だろうかかか……」 「会える。会えるさ、きっと」 ふきのとうはヒバリにそう答えた。      
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