第1話 悪夢

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第1話 悪夢

「おきろー!」 その声と同時に布団がさらわれる。 「朝よ、起きなさいよ」 「んー、なんだよ」俺は不機嫌を口に出す。 寝覚めは最悪だ。おそらく夢のせい。交差点で誰かが死にそうになる夢。 「なんだよ…じゃないでしょ! いつも起きてる時間過ぎてるじゃない。早く準備して」 はいはいと返事をしてベッドから降りる。 美沙はそれを見届けて、部屋を出ていく。おそらく朝食の準備に、台所へと向かったんだろう。 俺は登校の準備をする。美沙のおかげでパリッとしている制服を着て、鏡台の前に立ち、乱れを直す。 そして部屋にある仏壇に手を合わせる。父と母のものだ。 結婚記念日に2人で出かけて、そのまま帰ってこなかった。 今となっては何を考えるわけでもない。ただ日常の習慣として繰り返しているだけだ。あれから1年、気持ちの整理はついていた。 「用意できたよー」 家族同然に馴染んだ声がダイニングから呼ぶ。 「今行くよ」と返事をして勢いをつけて立ち上がり、部屋を出た。 ダイニングに行くと、焼き魚やみそ汁、新香に白米といった朝食が2人分、4人掛けのテーブルに並んでいた。 「うまそうだな」事実、美沙の作る料理はうまい。 「さっさと食べよ。遅れるよ」 向かい合って、2人でいただきますと言って食べ始める。 相変わらずの味に、郷愁を感じる。美沙の料理には母を感じるのだ。 「どう?」俺の顔を覗き込むようにして聞いてくる。味の感想についてだろう。 「今日もうまいな」 「そっか! よかった!」ありきたりな言葉にも、美沙は笑顔で応えてくれる。 そうして朝食をつつがなく済ませ、片づけをした後家を出る。 「さあ、いこ!」2人での登校は幼いころから続く日常だった。 学校までの道を美沙とならんで歩く。 「今日は選択の家庭科が調理実習なんだよ」 「そうなのか」 通学路を世間話をしながら進む。 そうして学校から一番近い横断歩道が見えるところまで来た。 「今日女子の体育はバレーなんだよ! スマッシュ決まったらキヨの方見るから…ってキヨ?」 俺は先にある横断歩道に見入っていた。 赤い歩行者信号。 迫るトラック。 2人話し込む女性。 ゆっくりと歩道に進むベビーカー。 そしてベビーカーから天に伸びる小さな手。 今日の悪夢と同じだ。 だがまだ救いはある。 母親が気がつけば、トラックが止まれば…。 けれど運命のギロチンはとまらない。 母親と運転手が気づいたときはすでに遅く。 伸ばす手も、ブレーキを踏む足も、ギロチンを止められない。 そこは無垢な命を絶つ断頭台であった。 当たる。 そこにいる誰もがそう考えたときに俺が考えていたことは。 ―――止まってくれ。 という純粋な願いだった。
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