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プロローグ
「おお……」
駅を降りた途端、“そういう”人たちがたくさんいるのがわかった。やたら大きな荷物、カラフルな瞳、顔にはマスク。まあ私もそうなんだけれど。
会場まで迷いそうで不安だったけど、これなら大丈夫そうだ。みんなについていけば良いんだもの。
ふと、メッセージを伝える通知が届いた。携帯を開くと、「今どこにいる?」との文字。「駅の東口にいるよ」と返すと、「じゃあわかりやすいところで待ってて」とのこと。
「わかった」と返してから、私は駅の入り口付近の端に寄った。
今日は大きなイベントの日。ネットで知り合った子と一緒に参加をする予定なのだ。その子とはリアルの知り合いではないのだけれど、まるで昔から親友だったかのように話が合う。
「(どんな子なのかな)」
きっと、とっても格好良い子なんだろうな。声も低いし顔立ちは男の子みたいだし、話し方も落ち着いている。
それにしても、本当に人が多い。これだとあの子が誰だかわからないかも。
辺りを見渡すと、華奢な女の子がこちらに走ってくるのが見えた。
「え?」
可愛いブラウスにスカート、ツインテール。想像よりもだいぶ可愛い感じだけれど……人違いだろうか。
しかしその子は真っ直ぐ私の目の前に来て、「志乃ちゃんですか?」と聞いてきた。志乃、とは、私のネット上での名前。
「はい……もしかして、凛月ちゃん?」
「うん!よかった、人が多いから見つからないと思った!志乃ちゃんが服の色が似てるから助かっ…………」
そこで彼女……凛月ちゃんは動きを止めた。
どうしたんだろうか、と彼女の顔を見た私も動きを止める。
人々のざわめきも聞こえないくらい静まりかえった私たち。永遠にも思えてしまうほど時が流れてから、彼女はやっと口を開いた。
「麻菜、じゃない?」
「愛夢ちゃんだよね……」
想像できるだろうか。
ネット上で男装姿を載せていたイケメンが、同じ部活の可愛い担当であり私と同じクラスの女の子だったなんて。
……私は一ミリも考えていませんでした……。
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