観察日記2日目

8/8
前へ
/120ページ
次へ
 「.........はっっっ!?」 「...あ。起きた?」 「......え?.........ええぇ!!??」  ベッドに横たわる僕と、ベッドに凭れて僕の方を振り返る半田君......そして窓の外の夕焼けを見て、僕は飛び起きた。 「え?えぇ!?な、なんで......えぇ!?」 「スプタン見たら気ぃ失うンだもん。ビビったよ」 「すぷ、たん?」 「え?覚えてないの?ほら、これぇ......」 「ひ......っ!?」 半田君が舌を出すと、また先端が割れた。割れた先端がウネウネと動く様子を見ていると、また気を失うかと思った。  「そんな珍しい?これ」 にゅ、と彼が舌をしまった。珍しいも何も、好んでやる人なんているのだろうか?僕が首を縦に振ると、彼はまた笑った。 「やってみると楽しいよ?やる?」 首を傾げる彼の言葉に、今度は首を横に振ると、彼はまた笑った。  「......じゃ、俺もう帰るね」 「はい......」 夕陽も沈みかけ、外が暗くなった頃。半田君が「そろそろ帰るね」と言ったので、玄関まで見送る事にした。 「また遊ぼっか。明日......は休みか」 「そうですね...明日は休みです......」 「......そうだったね」  彼は暗くなった空を見上げて、それから少し寂しそうな顔で僕を見た。 「......明日来ればよかったな」 「え?」 「いや、だからさ?明日遊びに来れば......」 そこまで言って、彼は口を閉じてしまった。 「......いや、やっぱいい」 「え??」 「...また明日な。バイバイ」 「えっ、あ......さ、さようなら......」 手を振る彼の顔はまだ寂しそうで、僕は見送りながらも少しだけ心配になった。  夕食と入浴を済ませ、僕はまたベッドに寝転んだ。 「......ふぅ、」 天井を見ていると、彼の寂しそうな顔がぼんやりと浮かんだ。 (......なんであんな顔したんだろ)  ごろ、と寝返りを打つと、布団に付いたんだろう半田君の香水の香りがした。 (......今日は石鹸系の香りか) クンクンと匂いを嗅ぐ。彼はほぼ毎日違う香水を使っているので、毎日嗅ぐのが楽しみである。  (......いや、僕は変態か) クラスメイトの観察日記を書いていたのだ。変態以外の何者でもないだろう。 (......ん?)  ぼんやりと見ていた、ベッド横に置いてあるミニテーブルの下。そこにレシートが落ちている。 (......半田君、捨ててったのかな?) ベッドから起き上がり、ミニテーブルの下を覗く。手を伸ばしてレシートをつかむと、そのレシートは綺麗に半分に折られていた。  「.........?」 「まさか」と思いレシートを開くと、そこには電話番号とSNSのID、それから短いメッセージが添えられていた。 "また連絡してね"  まるで、片想いの人に連絡先を教える女子のようだ。心臓がドクンと跳ねて、口元を押さえる。 「......深い意味はない、んだよね??」  その言葉を肯定するように、遠くから犬の鳴き声が聞こえた。 (案外ロマンチックな所あるんだな、半田君って)
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加