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観察日記4日目
クイズ番組を観ていた母さんが「あらぁ~」と声を漏らした。
「凄いわねこの子たち。何でも知ってるのねぇ」
「?」
僕もつられてテレビを観ると、画面の向こうでは"天才高校生"という大層な肩書きを持った高校生たちが、日本の歴史にまつわるクイズ問題に答えていた。
「......こういうの、最初から答え教えてあると思うよ?」
「んまぁ~……可愛いげのない」
「やぁねぇ」と、母さんが眉間に皺を寄せた。
(......クイズ、かぁ)
自室で明日の予習をしながら、僕は考えた。
(僕が絶対答えられる問題って......何だろ)
もちろん得意不得意はあるが、どの教科でも赤点は取った事がない。そんな僕が絶対答えられる問題......とは?
(......古典の現代語訳、とか?)
そんな問題がクイズ番組で出題される訳がないだろう。
「......僕って凡人なんだなぁ」
そりゃそうだろう。
虚しくなった僕は、再び予習に取りかかった。
「へぇ~………。察男君てアホなのね」
「......アホじゃないです」
翌日の昼休み。体育館裏で静かなランチタイムを送ろうとしていた僕の元に、半田君がやって来た。片手には、また美味しそうなサンドイッチが握られている。
「......てかさぁ、"クイズ"と"なぞなぞ"ってどう違うの?」
「え?あァ......言われてみれば...どう違うんですかね?」
食べようとして開けたお弁当の蓋を片手に、僕は空を見上げた。聞かれてみれば、どこがどう違うのだろう?
(......問題のレベル、なのかな??)
どこまでも晴れた空を見上げながら考えていたら、急に手元が軽くなった。
「ん?......っえ??.........ぁあ~!?」
「ん!この卵焼きうめぇ!」
「かっ!勝手に食べないでくださいよ!!」
見れば、半田君が勝手に僕のお弁当を食べていた。しかも僕の大好きな卵焼きを......。
「卵焼きうめぇ!やべぇ!」
「ちょっ!あ~っ!ぜ、全部食べましたね!?」
「だってうめぇもん!あ!じゃあ、お礼に俺のサンドイッチあげる」
「えぇ~......」
差し出された物を「いらない」とは言えず......僕はありがたくサンドイッチを受け取った。
「それ、俺の手作りハムサンド。美味しいからお食べ」
「え!?......あ、い、頂きます......」
"半田君の手作り"と知った途端、妙にドキドキして、サンドイッチを持つ手が震えた。
(は、半田君の手作り......)
ドキドキしながらも一口食べると、口の中にハムとマヨネーズのまったりとした味が広がった。
(お、美味しい......)
まったりとした味の中に、僅かに"からし"のピリッとした味がする。それがまた美味しくて、また一口食べてしまった。
「美味しい?」
「......ふぁい、とても......」
僕の言葉に、半田君が嬉しそうに微笑んだ。
「レタス嫌いだから入れてないけど、それでもなかなかイケるっしょ」
「はい......」
むしゃむしゃとサンドイッチを頬張る僕の横で、半田君は僕のお弁当を美味しそうに食べ始めた。
「ぷぁ~、食った食った」
僕のお弁当を食べた半田君が、幸せそうに呟いた。僕も半田君が作ってくれたサンドイッチを食べ終わり「ごちそうさま」と手を合わせる。
「たまにはいいね。お弁当の交換」
「えっ?あ、あぁ......そうですね......」
驚いた僕の返事に、半田君が目を細めた。そして僕の顔を覗き込んで「ねぇ」と囁く。
「ところで、考えてた?"クイズ"と"なぞなぞ"の違い」
「え......あ、あれって考えていないといけない事だったんですか?」
「当たり前じゃん!何ノンキに飯食ってんの!?」
「え、えぇ~......?」
そんな事を言われても困る。そして何より、食事中に考えたところで答えなんて分からない。本当に、あの2つの違いは何なのだろうか?
「はぁ~ぁ。仕方ないなぁ、察男君はぁ」
ため息混じりでそう言って、半田君は静かに立ち上がり僕を見下ろすと、牙(のようなピアス)を見せて笑った。
「放課後付き合ってあげるから、察男君の家で一緒に考えよーぜ」
「はい......え???」
こうして、僕はまた半田君と共に放課後を過ごす事になったのだ。
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