観察日記4日目

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 半田君が髪を耳にかけ「さて」と膝を叩いた。 「じゃあまず目を閉じて?」 「はい......」 向かい合って座り、指示に従って目を閉じる。 「ん~......で、まぁ後は何も考えずにキスすればいい、と思う」 (......適当だなぁ) 適当で当たり前だ。キスをする時に「最初はこうして」「次はああして」と考えながらする人はいないだろう。 「......じゃあ、いい?動くなよ~?」 半田君の声と香りが近い。今日の香水は、甘い花の香りだ。 「ン.........」 ふに、と柔らかい感触がして、唇同士が触れ合った。ほんの少しだけ痛いのは、半田君の唇のピアスが、僕の唇に食い込んだからだろう。  「......目ぇ開けていいよ」 「.........。」 ゆっくり目を開けると、少しだけ恥ずかしそうにしている半田君と目が合った。 「......何となく分かった?」 「.........はい、」 「......じゃあ、どうぞ?」 「............はい」 姿勢を直し、目を閉じる半田君。僕は緊張で死にそうになりながらも、少しずつ彼に顔を近付けていく。 「.........。」 あと少しで唇が重なる......そんな時だった。 「察男~、わりぃけど"コレ"の6巻貸してく......」 タイミング悪く兄さんが乱入してきた。勢いよくドアの方を向くと、兄さんがコミックを片手にフリーズしている。  「.........わりぃ。やっぱ夜でいいわ」 兄さんはすべて察したようだ。部屋のドアを閉め、静かに自室へ戻って行った。 「.........。」 「............なんか、ごめん」 半田君の小さな謝罪が、静かな部屋に響いた。  気まずい空気のまま、僕は半田君を見送る為に玄関に向かった。半田君はモソモソと靴紐を縛り終えると、僕の方を見て軽く頭を下げた。 「......なんかごめんね。気まずくさせて」 「いえ、大丈夫です......。うまく言っときます」 「うん......じゃあ、またね」 「そ、それじゃあ......」 お互いぎこちなく手を振り、別れの挨拶を交わした。半田君が玄関を開け、夕焼けに染まった外を歩いていく。 「.........。」  閉まっていく玄関を手で押さえ、歩き出す半田君の背中を見送る。 (......あ、) 夕焼けに染まった、外の景色。そこに半田君が溶けていく。輪郭を無くし、じんわりと半田君が景色に溶けていく......。 (......ダメだ......行かないと......っ!) 気が付いたら、僕はスリッパのまま走り出していた。  「.........半田君っっっ!!!!」 ガシッ、と手首を掴むと、半田君がびっくりして飛び上がった。 「っ、なに!?びっくりしたァ!」 慣れない靴で走ったせいでいつも以上に疲れたが、手首が掴めホッとした。 (......良かった、消えてない)  ホッとした僕を見て、半田君が首を傾げた。 「何、何なの?どした??」 「えっ?......っあ、そ、そうでした......。あの......"忘れ物"を......届けに来ました」 「?忘れ物??」 半田君が首を傾げた。 「......忘れ物って、な......っ」 そしてマスク越しの唇に、半ば押し付けるようにキスをした。 「......は?」 「.........忘れ物、です」  半田君が使った手段をそのまま使うと、半田君は目を丸くした。そして今度はマスクを外し、僕の唇に直接キスをしてくれた。 「......直接しないと罰ゲームにならんよ?」 「.........罰ゲームじゃなくて...忘れ物です」 「......そだっけね」 はは、と笑った半田君の手首を掴んだまま、僕はもう1度半田君の唇にキスをした。 (案外キス魔なのねぇ) (......忘れてください)
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