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観察日記5日目
春とはいえ、まだ手肌は乾燥する。
「......はぁ」
指の"ささくれ"は何度も制服やページに引っ掛かり、その度にチクリと痛む。指先は乾燥のせいか滑り、うまくページがめくれない。
(春とはいえ、まだまだ荒れるなぁ......)
荒れてガサガサになった手を眺めていたら、急に後ろから抱き着かれた。
「ひょっ......!?」
「さぁ~つお君。何してンの?」
「は、半田君......」
僕に抱き着いてきたのは、クラスのヤンキーの半田君だった。僕は趣味で彼の観察日記を書いていたのだが、不幸な事にそれが本人にバレてしまったのだ。
それからというもの、僕は完全完璧に彼のオモチャと化したのである。
(オモチャにしては丁寧に扱って貰えてるけど......)
そんな事を思っていると、半田君が「ところでさぁ」と言った。
「1つ、察男君にお願いがあるんだけど......いいかなぁ?」
「な、なんですか......?」
背後の彼をチラッと見ると、目を細めていた。目を細めるのは、彼が人を脅す時の癖である。
「昼休みで良いからさぁ、ちょっと買い物頼みたいンだよねぇ~」
「か、いもの......ですか?」
「そ。買い物」
そう言うと、彼はブレザーの代わりに着ているカーディガンのポケットから500円玉を取り出した。
「これでハンドクリーム買ってきて?」
「えっ?ハンドクリーム......ですか??」
「そ。俺の好きな匂いのにしてね?そんじゃ、また後で」
半田君はまるで「それが当たり前」というような態度で僕の頬にキスをして、ヒラヒラと手を振って去って行った。きっと今から屋上で暇潰しをするのだろう。
「......大胆だなぁ」
人肌に温まった500円玉を握り締めて、僕は半田君の背中を見送った。
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