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"もみくちゃ"にされている半田君を放置し、僕は近くのドラッグストアへ向かった。目当てはもちろん、半田君に頼まれたハンドクリームである。
(自分で買いに行けばいいのに......)
そう思っても、本人には言えない。そんな事を言って逆らおうものなら、観察日記の件をバラされてしまうからだ。
「......はぁ...」
甘い花の香りがする春の風に、僕のため息はどこかへ連れて行かれてしまった。
(ぬ、ぬぬぬ.........?)
ドラッグストアの棚に並ぶ、色とりどりで可愛いデザインのハンドクリーム......どれがどういう物なのか全く分からない僕は、眉間にシワを寄せた。
(保湿にナイトケア......ネイルケアにエイジングケアにスキンケアに美白効果???)
皆、ハンドクリーム1つでどこまでケアをするつもりなのだろう。こういう物に疎い僕は、とにかく首を傾げた。
(ま、まぁとりあえず買おう......)
目の前にある普通のハンドクリームを手に取ろうとして、僕は固まった。効果だけでなく、香りもたくさんの種類があるではないか......。
(......えええ...)
フローラルやシトラスといった想像しやすい香りだけではなく、"初恋の香り"や"清楚な香り"といった想像しにくい名前の香りもあるではないか。
(.........普通に書いてくれ、普通に...)
伸ばした手を引っ込め、僕は大きなため息をついた。
(半田君は"好きな匂いのにしてね"って言ってたけど......)
香りの想像がしにくいだけではない。彼の香水は日替わりなのだ。
(好きな匂いって......あるのかな?)
日替わりで様々な香水を使う彼に、好きな香りはあるのだろうか?分からない事だらけで、脳みそが沸騰しそうだ。
(.........あまり考えるのは止めよう)
昼休みはそんなに長くない。僕は1番安いハンドクリームを手にして、レジに向かった。
「お。おかえり~……ってどしたの?枯れてるじゃん」
満身創痍1歩手前の状態で教室へ戻ると、半田君がボサボサ頭のままサンドイッチを食べていた。
「......ハンドクリーム選びに悪戦苦闘してました」
「マジ?お疲れェ~」
半田君は最後の1口をパクリと食べると、僕の手首を握った。
「ほいじゃあ屋上行こ、屋上」
「え???」
「何で屋上なんですか?」と聞くより先に、満身創痍もどきの僕は半田君に引きずられていった。
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