観察日記5日目

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 "もみくちゃ"にされている半田君を放置し、僕は近くのドラッグストアへ向かった。目当てはもちろん、半田君に頼まれたハンドクリームである。 (自分で買いに行けばいいのに......) そう思っても、本人には言えない。そんな事を言って逆らおうものなら、観察日記の件をバラされてしまうからだ。 「......はぁ...」 甘い花の香りがする春の風に、僕のため息はどこかへ連れて行かれてしまった。  (ぬ、ぬぬぬ.........?) ドラッグストアの棚に並ぶ、色とりどりで可愛いデザインのハンドクリーム......どれがどういう物なのか全く分からない僕は、眉間にシワを寄せた。 (保湿にナイトケア......ネイルケアにエイジングケアにスキンケアに美白効果???) 皆、ハンドクリーム1つでどこまでケアをするつもりなのだろう。こういう物に疎い僕は、とにかく首を傾げた。  (ま、まぁとりあえず買おう......) 目の前にある普通のハンドクリームを手に取ろうとして、僕は固まった。効果だけでなく、香りもたくさんの種類があるではないか......。 (......えええ...) フローラルやシトラスといった想像しやすい香りだけではなく、"初恋の香り"や"清楚な香り"といった想像しにくい名前の香りもあるではないか。 (.........普通に書いてくれ、普通に...) 伸ばした手を引っ込め、僕は大きなため息をついた。  (半田君は"好きな匂いのにしてね"って言ってたけど......) 香りの想像がしにくいだけではない。彼の香水は日替わりなのだ。 (好きな匂いって......あるのかな?) 日替わりで様々な香水を使う彼に、好きな香りはあるのだろうか?分からない事だらけで、脳みそが沸騰しそうだ。 (.........あまり考えるのは止めよう)  昼休みはそんなに長くない。僕は1番安いハンドクリームを手にして、レジに向かった。  「お。おかえり~……ってどしたの?枯れてるじゃん」 満身創痍1歩手前の状態で教室へ戻ると、半田君がボサボサ頭のままサンドイッチを食べていた。 「......ハンドクリーム選びに悪戦苦闘してました」 「マジ?お疲れェ~」 半田君は最後の1口をパクリと食べると、僕の手首を握った。 「ほいじゃあ屋上行こ、屋上」 「え???」 「何で屋上なんですか?」と聞くより先に、満身創痍もどきの僕は半田君に引きずられていった。
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