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1限が無事に終わり、2限前の休み時間になった。教室内はザワつき、僕は1限の片付けをする。
「ふっ......んっ......っぐ~!よく寝たぁ!」
半田君はグッと背筋を伸ばし、それから僕の方を見た。そして指先をチョイチョイと動かし「ありがとね」と呟く。
「......どうぞ」
そう。この時間も、僕は2人分のノートを取っていたのだ。時々なら構わないが、毎度毎度こんな事をやらされていたのでは、たまったものではない。
「......次の時間は自分でとってください」
「は?何か言った?」
「......何でもないです。すみません」
頑張って反発をしてみたものの、やはり彼には勝てそうにない......。目を細めた彼を前に、僕は小さくなるしかなかった。
無事に4限まで終わり、昼休みがやってきた。僕は静かなランチタイムを送るべく、静かな体育館裏へと足を運んだ......のだが。
「あ、察男くぅん。やっぽ~」
「.........。」
「おいこら。静かに回れ右すんな」
まさかの先客がいた。しかも半田君だ。急いで回れ右をする僕の制服の襟を掴み、そのままズルズルと引きずる。そして自分が座っていた隣に僕を座らせると「んふふ」と笑った。
「まさか俺がここに来るとは思わなかっただろ」
「......ハイ」
「俺、いつも教室か屋上で食うもんね?」
「.........ソーデスネ」
「ま。俺も人間だし?そりゃあ、"たまには違う行動もしますよ~"って......ね?」
「......ハハハ」
乾いた笑いを漏らす僕を見て笑う半田君の片手には、美味しそうなサンドイッチが。彼がパン好きなのは観察していたので知っている(休み時間もよく菓子パンを食べているのである)が、米は食べないのだろうか?"1日1回は米を食べた方がいい"と、何かで読んだ気がした。
「......それ、弁当?」
「えっ?あ、はい...弁当......です」
「いーなぁ、弁当」
そう言って、彼は僕のお弁当を見つめていた。気まずさを感じた僕はお弁当を包んでいた風呂敷をほどき、蓋を開ける。
「......食べますか?」
「いらね」
「んんっぐぅ......」
「俺が昼飯はパンを食うの知ってるで......あ、そか。知らねぇか。いつも別の場所で食うもんね」
そう言いながら、彼は美味しそうなサンドイッチに噛みついた。
(......なんだこの人。よくわからん......)
サンドイッチを頬張る彼を横目に見ながら、僕はお弁当の唐揚げに箸を伸ばした。
お弁当を食べ終わり、静かになった隣を見ると、半田君が寝ていた。小さな石段に横になっているが、苦しくはないのだろうか。
「.........。」
彼に観察日記の事がバレたあの日から、僕は観察日記を書いていない。だからなのか、僕は彼の事をよく見つめるようになった。ちなみにあの観察日記は、彼が家で保管しているらしい。「捨てたら可哀想だけど、どーせ返したらまた書くだろ?」という事らしいが.........。
(だからって保管しなくても......)
優しいのか何なのか。僕は頬杖をつきながら、よく分からない彼の観察を始めた。
「ん......んン......」
こちらに背中を向けて眠る彼が、小さく唸ってこちらに寝返りをうった。マスクは顎に引っかけたままなので、口元のピアスが丸見えだ。
(......牙が生えてる)
口の中にもピアスを開けているのだろうか。前歯のところから、牙のようなピアスが見える。
(......どうなってんだろう、これ)
口の中の物なので触る気はない......が、気にはなる。恐る恐る手を伸ばすと、彼の睫毛が揺れた。
「ん.........?」
そして、目と目が合った。僕は伸ばした手をそのままにフリーズする。
「.........なにしてんの?」
「.........おはよう、ございます」
まさか「その牙どうなってるんですか」とは聞けず。目覚めた彼に朝の挨拶を返した。
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