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「ただいまァ~..........」
玄関を開けて声をかけるが、返事がない。どうやら2人ともまだ仕事で、家に帰ってきていないらしい。
(まぁ、母さんが半田君を見たら腰抜かすだろうし......ちょうどいいか)
そんな事を考えながら靴を脱ぎ、僕は手洗いうがいをするために洗面所へ向かった。
(......しかし参ったな...)
小学生の頃から1度もサボった事がない手洗いうがいを済ませて、僕は部屋のベッドに寝転がった。天井を見つめながら、ぼんやりと考える。生きている世界が真逆の彼と、一体何をして遊べば良いのだろう?
(ま、まさかシンナーとか?いや待て、それは遊びじゃない......)
「冷静になれ」と自分を叱ると、家のチャイムが鳴った。
「......というわけでお邪魔しま~す」
「い.........いらっしゃい」
ビニール袋を片手に玄関の前に立っていた半田君は、白地に金のラインが入った"田舎のヤンキージャージ"を着ていた。おまけに黒いマスクまでしているので、典型的な"田舎のヤンキー"である。
(......ヤンキーって皆こうなのか......)
有名キャラクターの健康サンダルを脱いでいる姿を見て、僕は笑いを堪えた。どこまで典型的な田舎のヤンキーなのだろうか。
(だ、だめだ...ここで笑ったら死ぬ......)
頬を膨らませて笑いを堪える僕の家を見渡して、半田君は首を傾げた。
「親いねぇの?仕事??」
「あっ、はい......仕事、です」
「へェ~。じゃあ今、俺と察男君の2人きりなんだ?」
「え?.........あ"」
言われてみれば確かにそうだ。今この家にいるのは、僕と半田君の2人だけ......つまり"何があっても気付いてもらえない"のだ。
(ど、どうしよう...いや、でもそんな変な事はしてこない......よね??)
いくら半田君とはいえクラスメイトだ。変な事はしてこないだろう......というか、彼が誰かに変な事をしている姿を見た事はないので大丈夫だとは思うが......。
「......まぁ何でもいいけど。それより上がらせてくれね?」
「えっ?あっ!す、すみません!どうぞ!」
裸足で健康サンダルの上に立つ彼を家にあげて、僕は「お茶を用意しよう」と台所へ向かおう......としたが。
「おぎゅっ!」
後ろから襟を掴まれ、僕は立ち止まった。
「どこ行くの?部屋そっち?」
「ぅえっ、ち、違います...お茶を......」
「いいよそんなん。ペットボトルで買ってあるから」
「ほら」と、半田君がビニール袋を見せてくれた。
「お茶もお菓子もあるからいいって。部屋行こうぜ、部屋」
「あっ、は...はい......わ、分かりました...こっちです」
「はいよ。じゃ、お邪魔しまぁ~す」
僕が2階を指さすと、彼は襟から手を離し、ズカズカと階段を上がって行った。
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