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17
ほどなくして暗闇の中から規則的な水音が戻ってきた。
自動装置が作動し、静かに始まったカウントダウンにも、もう落ち着いていられた。やっと思考を取り戻した頭で温度計と酸素濃度計を持ち、一つ一つの水槽を確認して回る。
戻ってくる海広は、いつものどっしりした足取りだった。
「手分けそう。温度計貸して。反対から計測するね」
「うん」
全ての水槽を確認し終えると、最奥で部屋全体が見渡せる位置の壁に二人して寄りかかった。一つの寝袋と薄い毛布を座布団にしているので、肌寒いくらいで済んだ。静かに台風が通り過ぎるのを待つだけの、二つの影は寄り添っている。
「寝袋なんてあったんだね」
「うん。お泊まり道具発見されちゃうと、泊まり込み公認になっちゃいそうで隠してたんだ。煌先生、絶対家帰んなくなるもん」
「じゃあそれは誰の私物?」
「…俺」
「ほら、全然人のこと言えないじゃん」
「俺はいいの。もともとだから」
「そんなのずるい」
「なんでそこで拗ねるわけ」
どこかでこんなやりとりしたっけな、と考えていた。古くて、消えない思い出を巡らせていたら、回路を感じ取るように海広が口を開いた。
「ねえ、煌先生。停電が明日までに復旧したらさ」
「うん」
「会ってきて。創一さんに。今の創一さんを、ちゃんと見てきて」
何百回も考えてきたことを、人から改めて口にされるのが不思議だった。この十数年、ひたすら苦しかった。苦しいと同時に得られる安心に、甘んじていた。ずっと確かめたかったことに、勇気が足りずに確かめられなかったことに背を向け、一人で過去の罪に苛まれていれば、最後にとどめを刺されることはないのだから。
「それでどんな結果になったとしても、ちゃんと戻ってきて。ここで、俺はいつまでも待ってるから。約束ね」
勝手に煌の手を取る。小指を絡められても、されるがままでいた。
「移植でも復元でも、どっちでもいいんだよ。生きてくれたらさ」
サンゴも創一さんも、と締めくくる。
海広は水みたいだ、と煌は思う。水の中で重力に浮力が釣り合うことで、船は海面に浮くことができて、物体は地上よりも軽くなるのと同じく、海広から発せられる不思議な魔法は煌をふわっと浮かせることができるから。
そうだ。戻ってきたら、泳ぎを覚えよう。どうせ誇れる趣味もないし、自由な時間は山ほどあるんだから。カナヅチを克服して、水の中で自在に泳ぐ自分を煌は想像する。海広のように、体積を押し上げる浮力に身を任せて、海底に広がるサンゴの庭をこの目で直接覗いてみるのも悪くない。
思いついてみたら、それはとても名案である気がした。
横にはきっと、海広がいてくれるから。
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