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   いつのまにかうとうとと眠っていたらしい。  ぱちっと点灯した灯りに、煌は目を覚ました。風の不機嫌な唸りも、雨の猛威も聞こえない。慌てて時計を確認する。朝五時八分。  同じ体制で眠りについていた海広も目を擦り起き上がる。 「どうやら、直ったっぽいね」 「よかった…」 「言ったでしょう。大丈夫だって」  携帯をいじり、どこかに電話をかけ始める。 「ああ、おとん? 戻った戻った。市長にももう大丈夫だって言っといて。九時になったら俺からもちゃんと電話かけるさね。うん、ありがとう」 「…市長?」 「そう。もし十時間経っても復旧しなかったら、文化会館に水槽、まるっと全部運び込む予定でいたからさ、もういいですよって」 「まるっとって…」  大掛かりな計画をさらっと言ってのける。 「四トントラックとおとんたちの手借りて搬入したらすぐだよ。で、市長も会館使っていいって言ってくれたから。あそこの強力な自動電源装置ならうちの倍は保つ」  煌は拍子抜けした。安全で確実な抜け道を最初から海広は知っていたのだ。  そんなことよりも市長とさえ繋がりのあるこの男、改めて何者なのか。 「俺、一人で取り越し苦労してたってこと?」  睨み付けると海広は降参、の意で両手を上げる。 「だって煌先生、割と早くからパニック状態になっちゃってたから、言うに言えなくて」 「言えた! 絶対いつでも言えたよ!」 「まあまあ、いいじゃん。最悪の事態が現実にならなかったんだしさ」  とは言え海広はむやみに人を負の感情に晒すような性格じゃないことは十分に知っている。どこまで計算していたかはわからないが本当は、約束をさせるためだったんじゃないかと、大きなあくびをしている海広を横目にふと思った。  それから大きい影は背伸びを思いっきりすると、西ノ森教授と岡達の電話に対応し、パソコンを立ち上げ、国立研究所として各管理局に着々と安否報告をする。煌がここにあるだけのサンゴの心配しかできないでいた間に、海広は全ての方面に思考を巡らせ、対策を考えていたのだ。しかも煌にその姿を見せないことで、不安にさせないよう気を配りながら。  もう絶対に敵わないなあ、とその背中を見て思った。  そして決意した。  故郷に戻ろう。  海広の後ろでは朝日の強い光が、一日の始まりを讃えていた。
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