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長く乗船した日は必ず、ベッドに入って眠りにつく瞬間までうねる波に身体が揺らいでいるような体感が続く。浅い睡眠からその感覚に乗って、ゆらゆらと目が覚めた。朝方なのだろうが、辺りはまだ暗い。
あれ、昨日船乗ったかな、と寝ぼけ眼で思い返すと枕代わりに煌の頭を支えていた腕が身じろいだ。あ、と思う。腕から伝わる海広の脈が、そんな幻影を煌に起こさせていたのだと気づいて、人間が持つ感受性の豊かさに感動した。こんな些細な発見の一つが、心踊るほど嬉しい。友情の方が大切だなんて、ついこの前まで思っていた自分が信じられない。
横ですやすやと眠る男にもこの昂ぶりを伝えたくて、しかし無防備な寝顔をもう少し一人で楽しみたいとの結論に至る。海広の額を邪魔する毛束をそっと掻き揚げしばらく眺めていると、その目がうっすらと開いた。
「起きてたの?」
「うん」
「煌、あのね。今俺、夢見てた」
「どんな?」
「煌と二人で、海の中にずーっと潜ってくと、サンゴ礁がぱあっと広がってるの。今作ってるフィールドよりももっともっとどこまでも遠くまで、いろんなサンゴがいっぱいいっぱい花みたいに、咲いてた。すっごい綺麗だった」
言い終わったら、嬉しそうにぎゅっと煌を抱きしめる。
腕の中で、じっと目を閉じ煌も海広の見た夢の情景を思い描いてみた。
青くて深い海の中で色鮮やかに咲いた、未来をつなぐとりどりの花たちと、煌の手を取って先へと導く、海広の笑顔を。
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