第四話

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 葵ちゃんは多分恋人の居る病室に居るだろう。彼女の事情は、何も知らない。葵ちゃんの恋人がどんな人なのかも知らないし、彼女が今も彼のことを想っているのかも知らない。本当に何も知らないんだ。それでも俺は、あの時あんなに必死になってしまった。多分、許せなかったんだ。大切な恋人を傷つけてしまうことが。俺と同じ過ちを繰り返させるのが、何よりも許せなかったんだ。俺はまだ左手でスマホを握っていた。そうだ、今度こそ彼女のメッセージを聞こう。 『……ごめん、電話切っちゃって……でも、嬉しかったよ。…………実は、今から……手術なの……だからさ、こうやって、結月君に言葉を残すのって、踏ん切りになるような気がして……あ、ほら、手術で不安だから……さ…………気持ち的に後押しが欲しいの……私は、結月君とまた会えるなら大丈夫だから…………ありがとう』  音声メッセージが終わった。このメッセージを受け取ったあの日以来も、彼女と会うことは出来た。高二の夏休みの短い間だったけど、何回も電車で会いに行って、楽しい時間を過ごせたはずだ。だけど、俺はその時よりも前に、君の傷をえぐって深く変えた。それからの日々だって、俺は一体君に何をしてあげられたと言うんだ。俺は、悲観的なままだった。結局、君を不幸に死なせてしまった俺は、どこまで行っても悲しいままだ。きっと、一生治らない。青と会えないならば、俺は大丈夫じゃないんだ。今涙を流したところで、青が慰めてくれるわけではない。だから、涙は無意味に流れるだけなんだ。立ち直ることもない。結局、俺は泣いてなかった。顔を上げてみると、涙目の葵ちゃんがいた。
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