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「あ。葵ちゃん……」
「待っててくれたんですね」
彼女は、力なく笑った。悲しみが滲んでいた。やっぱり、彼女は来るべきだったんだな。とりあえず、さっきの失態のことは、あんまり考えなくて良いや。
「座りな」
ハンカチを差し出した。葵ちゃんは、特に頷いたりもせず、ただハンカチを手にして、俺の隣に座った。二人でいろんなことを話した。彼の余命が僅かと聞いて付き合っていく気が失せたこと。その気持ちの変化を別れとしたこと。一人じゃ不安で新しい恋人が欲しかったこと。俺となら気が合うと思ったこと。気恥ずかしくて素を隠し始めたこと。本当は俺に恋人なんていないと気付いたこと。そして、人生で初めて、死を別れとしたこと。俺は思った。恋人の最期に”何か”をしてあげられた彼女は、きっとまた幸せになれるだろう。
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