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病院を出て、雲一つ無い空を見上げた。明るい空だ。
「青い空……きれいだ」
ふと、何かに引っ掛かる。自分の今の発言に何かが隠れている気がした。思いもよらぬ重大な何かがある気がして、考えていた。
「ん?…………青……い……?」
「先輩?」
「え?」
聞きなれた声がした。顔を上げれば、案の定見慣れた顔があった。くりっとした垂れ目の中に、透き通るような瞳が見えている。そのきれいな瞳が真っ直ぐにこちらを見据えていて、思わずドキリとした。
「先輩、今私のこと呼び捨てにしてました?」
「へ?」
「だから、「葵」って」
「え、あー、違うよ」
「なーんだぁ」
彼女は、バイトの後輩の葵ちゃんだ。今日は白いワンピースを纏っている。
「葵ちゃんは、こんなところで何してるの?」
「私は……って、先輩こそそれどうしたんたですか?!」
彼女は、俺の包帯まみれの腕を見て、叫んだ。
「あぁ、交通事故に遭っちゃてね。大したことはないよ」
「ホントですかぁ~?」
訝しむように俺の腕の様子を見る葵ちゃん。その表情が何処と無く可愛く思えた。だけど……
「じゃあもしかして、あそこの病院行ってたんですか?」
彼女は、すぐそこの病院を指差す。俺がさっきまで居た場所だ。
「うん。今出てきたとこ」
「じゃあ、今帰るとこですか?」
「そうだね」
「駅まで一緒に行きましょうよ」
彼女の提案に応じた。
やがて、駅に着いた。彼女とは、ここでお別れだ。そこで、財布が無いことに気づいた。ICカードも財布の中だ。無くしたかな? まあ、せいぜい千円位しか入ってないけど。でも、このままだと電車に乗れない。交番に行けばお金を借りられると聞いたこともあるけど……
「私が貸しましょうか?」
まあ、それが自然だよね。葵ちゃんには、悪いけど。俺は、彼女から電車賃を受け取る。
「ありがとね」
彼女のお金で買った切符を使って、改札を通る。
「これは貸しなんで、今度何か美味しいもの奢ってくださいね!」
楽しそうな声が響いた。振り向くと、彼女は走り去っていった。改札を通ってしまった俺は、彼女を追いかけられない。返事をさせずに彼女は去った。彼女は、俺のことが好きらしい。そして、そんな彼女を、俺は以前フッたのだ。
「あお……ぃ……」
口が勝手に呟いた。
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