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「いえ~いオレの勝ち~!」
「なんなんヤッさん、その顔に似合わんリズム感!」
「はい顔は関係ありません~!」
彼らの間で今一番盛り上がっているのは、音楽ゲームによる対戦である。1プレイごとに交代しては、その勝ち負けに一喜一憂している。ゲームそのものが、というよりも、仲間同士でワイワイと騒いでいられることが楽しかった。
「次、オレとソラっちやで」
暁海に呼び込まれ、三上が隣に立った。
「まあ~、勝つのはオレですけど!」
と、口だけは達者な暁海であったが、結果は三上の圧勝だった。
「……これで俺の三連勝だな」
ふふん、と三上が余裕の笑みを浮かべる。
「なんで!? 絶対音感の貴公子と呼ばれたオレやで!? なんで!?」
大袈裟にガックリと膝をつく暁海を見て、帰宅部連中が爆笑する。
「いや、誰も呼んどらんから!」
「ほんま、昔っからヨウちゃんのリズム感の無さヤバすぎやろ!」
「そうそう、小学校の時の合唱コンクール、一発目から音外した事件!」
「あれな! クッソ笑ったわほんま!」
「やめろや~人の黒歴史漁るの~」
彼らにとって、その話題は何年経っても「すべらない話」であり、事あるごとに振り返っては笑いを巻き起こしている。あくまでも彼らにとっては、であるが。
「………………」
三上は、さっきまでの楽しかった気分がスッと引いていくのを感じた。暁海の子供時代のことを彼は知らない。疎外感だけではない、何か別の感情が胸の奥に蓄積していく。それは、あまり気持ちのいいものではなかった。
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