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「おっしゃ授業終わりぃ! ほれ遊びに行くで!」
放課後を迎えるや否や、クラスの帰宅部連中に次々と声をかけて回る男子生徒、暁海 陽一(あけみ よういち)……あだ名はヨウちゃん。180cm近い背丈に、明るい性格と垢抜けた容姿。それらを活かして、体育会系の部活でモテ期を謳歌してもよさそうなものだが、まあ、気性は人それぞれ。少なくとも、今は気の合う男友達と騒いでいる時間が彼にとっては大切らしかった。
「お~い、ソラっちも行くでえ」
彼が最後に声をかけたのは、教室後方の窓際席で帰り支度をしていた三上 空(みかみ そら)……あだ名はソラっち。と言っても、それを使っているのは名付け親である暁海だけだったが。
(またか……あいつ、どうして俺を誘うんだ?)
半年前に東京から引っ越してきた三上は、いまだこの大阪という土地に順応できていなかった。きつく聞こえる話し言葉に、やたらと近い距離感。こちらが心の壁を取り払う前に、向こうが勝手に乗り越えてくる……そういう気質が性に合わなかったから、三上はより高い壁を築いた。その結果、なんとなくクラスで浮いた立ち位置になってしまった。しかし、その高い壁をものともせずに登ってきたのが暁海であった。
「ほな、正門前で待っとるからなァ!」
「おいっ……」
暁海は、三上の返事を待たず五人の帰宅部仲間を引き連れて教室を出ていってしまった。
(……まったく、行くしかないじゃないか)
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