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「親というのは例え子供に嫌われようが、真っ当な道を進んでほしいものだ。それが親にとって最大の望みだ。恐らく鮫崎氏もそうだったに違いない。厳し過ぎるしつけも彼なりの愛情と考えれば頷ける」
しみじみと答える影原主任だが、私はそんな主任に皮肉な笑みを浮かべた。
――まぁ、あなたはその上を行くけどね。
「虎次はどうなる?虎次とは勘当同然で連絡もしない有り様だったんだろ?」
陽向管理官は次に次男について聞いた。
「アイツに関しては愛想を尽かしたと思っていいだろう。それに嫁は諦めたとはいえ教育者だ。自分が言わなくてもこれ以上、道を踏み外さないだろうと考えた方が妥当だ。しかし後悔はあった。そして思った。同じ過ちを繰り返してはいけない。もう一人の息子はまだ間に合うと……」
主任の考えが大分、読めてきた気がした。
自分の子供が悪さをしたら、叱るのが親の常。
だけど、それでも言うことを聞かなければ実力行使にでるしかない。
「つまり、鮫崎氏は氷室雄一を警察へ突き出そうとしていたのか?」
管理官の問いに主任は少し間を置いてから、首を縦に頷いた。
「まぁ、まだ推測の域だがな。しかし、そうなる前に氷室が知ったとしたら?母を捨てた癖に善人ぶるのか?暴力団と繋がりを持つ自分はどうなんだ?そんな疑問が憎しみへと変わり、憎悪は増していく。そして、殺意が芽ばえる」
書類が漸く、私の手に渡った時、影原主任は言った。
「これが殺人の動機だ」
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