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「あれは2000年、ママはまだ独り身だった」
杏美ちゃんの語り始めると、私は頭の中でイメージを始めた。
「ママは仕事帰りに近くのレンタルビデオ屋に寄るのが日課になっていたの。好きな映画で独り身の生活を紛らわそうとしていたのね」
映画が好きと共通点は主任と同じだった。
「ママは当時最新作だった『マトリックス』を借りたかったらしいの。映画館で見れなかったから、漸くレンタルされて楽しみにしていたのに全部借りられていて、ため息の出る毎日だった。だけど、そんなある日、やっと1本の借りられてないビデオがあった。それを手にしようとしたその時……そこに1人の男と同時にビデオを掴んだ」
「それが、お父さんだった訳ね」
杏美ちゃんはうんと頷くと、話を続けた。
「そこでママとパパは言い争いになった。大の大人が1本のビデオで口論になるなんて恥ずかしいと思ったけど、2人共、映画館では見てなくて、お互いに待ってたんだから無理もないわね。だけど、言い争いの題材が『どれくらいキアヌ・リーブスを知ってるか』で2人共、映画ネタばかり大声で話すもんだから店員さんも傍にいたお客も近寄らなかったって言ってたわ」
杏美ちゃんは2人の馴れ初め話を楽しそうに語ってくれていた。
「そ、それでどうなったの?」
「結局、その日の内にもう1本のビデオが返って来たから、それで事なきを得たけど、ママはその人の忘れられなかった。映画の話で私と張り合えた人を初めて見たってママは言ってた。そして再び、レンタルビデオ屋で再会して付き合うようになった……どうしたの?さっきから暗い顔して」
「えっ?」
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