第9話 対峙

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「ええ、そうですよ」 ――えっ? 「調べればすぐに分かる事です。遅かれ早かれ、警察がその事に気付くのは目に見えていました。今まで言わなかったのはこの事件とは関係ないと思ったからです。私は私情を仕事場に持ち込まないようにしているんです」 自分が鮫崎氏の隠し子だと認める氷室社長に私は少し困惑していた。 こうもあっさりと認めてしまうのは予想外だった。 「知っての通り、鮫崎氏とはバーで出会いました。一緒にお酒を飲みながら、会話しているうちに意気投合し、連絡先を交換しました。二回目にお会いした時は互いの過去話で盛り上がりました。そして母の話になったんです。その時、彼の表情が変わり、恐る恐る母の名前を尋ねました。母の名前を答えた時の鮫崎さんの表情は今でも覚えています。そして鮫崎さん自ら名乗り出ました。自分が父親だとね」 氷室社長の笑みは消え、真剣な表情で語っていた。 「最初は憎かった。彼は母を捨て、母は私を育てるのに身を粉にして働いた。そして、無理がたたって死んでしまった。身寄りのなかった私は孤児院に引き取られました。学校では散々、虐められましたよ。それでもめげずに生きてきましたが、やはり、父親への憎悪は募るばかりでした。20歳になった時、過去と決別するために姓を変えました。氷室は孤児院の院長先生から頂いたものです」 氷室社長は自分の過去を語った上で鮫崎氏の事を話した。 「さっきも言いましたが彼が憎かった。しかし、彼は罪悪感を背中に乗せて生きてきた事が分かったんです。そして、彼のやり直したいという気持ちが伝わり、許すことにしたんです」 淡々と自分の過去を話す氷室社長に私は黙って聞いていた。 しかし、主任はとんでもない質問をぶつけてきた。 「本当は2000万が欲しくて許したのでは?」
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