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主任の置いた指は氷室社長の右手首を指していた。
「鮫崎一家を左手でナイフをメッタ刺しにしたところを見ると、左利きなのは間違いありません。左利きの人間は大抵、腕時計は右手にはめるものです」
更に主任の推理は続いた。
「犯人は被害者の顔を右手で枕を押さえつけて左手でナイフを刺した。だけど、ここで思わぬ誤算が生じた」
「誤算?」
「それを犯人は頭に入っていなかった。何故なら、犯人は窃盗やサイバー犯罪にはプロ並みでも、殺人に関しては全くの素人だったから」
主任はそのまま誤算について説明した。
「犯人の誤算……それは被害者の抵抗です。被害者が抵抗するのを犯人は予想できなかった。鮫崎さんが腕時計を掴んだ時はさぞや焦ったでしょう。ベルトが外れ、腕時計は壊れた。殺害後、何とか腕時計を回収する事ができたが、全てを回収しきれていなかった」
主任は内ポケットから私が発見したDバックルを置いた。
「人は感情が高ぶると、目先の目的にしか頭が置かなくなってしまう。それによって、肝心な証拠を置き忘れる事もあるんです」
氷室社長の額から汗が垂れた。
私はすぐに社長の右手首に注目した。
腕時計ははめていなかった。
そして写真をもう一度、目を凝らして見てみると………
氷室社長の右手には金色の腕時計が輝いていた。
「Dバックルにはあなたの指紋が検出されました。遅かれ早かれ逮捕状が出るのは時間の問題です。その前に自首するのをオススメします」
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