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付き合い始めて一か月。
僕と茜は一緒に住むことになった。
アパートを決めて面倒な手続きも済ませ、今日はいよいよ引っ越しだ。
六畳のフローリングの半分は、荷解きの終わらない段ボールの山に占領されている。
取り付けたばかりのカーテンが、初夏の風をいっぱいにはらんでいる。
荷物を運びこんだせいもあって、額には、じんわりと汗がにじんでいた。
まだ五月のはじめというのに、冷房をつけたくなるような暑さだ。
腕時計を眺めると、すでに午後一時を回っている。
「引っ越しそばでも、食べに行こうよ」
僕は茜にそう提案した。
スニーカーを履いてオモテに出る。
地図アプリによると、近くに蕎麦屋があるようだ。
しかし。
僕はがっかりしてしまった。
目当ての蕎麦屋には「本日終了」の張り紙があったのだ。
古びてはいるが、民家風のこじんまりした店だった。
蕎麦、食べたかったのに。
「仕方ないよ。ああ、うどんでいいじゃない。うどん食べに行こうよ」
僕は、茜の指さすほうを見やった。
道路を挟んで斜向かいに、うどん屋の紫の暖簾が見える。
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