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「お前、うまい蕎麦を食ったことないんだろう」
僕は長野の生まれだった。
澄んだ水と、寒暖差の中で生まれた蕎麦は、香りが違う。
スーパーなんかで売っている、ビロンと伸び切ったナイロンみたいな奴と一緒にされては困るのだ。
「そんなこと言ったら、ジンくんだって、美味しいうどん食べたことないんじゃない?」
「うどんなんて、どこも同じだろう」
茜がハンと鼻を鳴らした。
「何言ってんのよ。あたし、香川出身なのよ。香川のうどん、食べてから言いなさいよね」
か、香川か。
香川は、「うどん県」だと聞いたことがある。
なんだかよく知らないが、県民総ぐるみで、うどんをゴリ推しているのだろう。
茜もうどんに、並々ならぬ愛情を注いでいるということが推察される。
だからって、蕎麦をオッサンなどと言って、おとしめていいということにはなるまい。他を下げることで、自らの地位を確立しようという考えは浅はかだ。
僕はだんだんメラメラしてきた。
蕎麦をないがしろにすることは、地元をないがしろにすることだ。
蕎麦VSうどん。
負けられない。
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