喧嘩するほど

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茜はチラリと僕の顔を見て言った。 「ほら、うどんはね、いろんなトッピングが楽しめるしね。和風でも洋風でもいけるじゃない?」 「蕎麦だってあるさ。ええと、ガレットとか」 食べたことないけど。 「ふうん。実は、蕎麦よりうどんのほうがカロリーも低いのよ」 「カロリーが高いほうが、腹いっぱいになってお得じゃないか」 「なによ、それ」 「だいたい、蕎麦のほうが栄養があるはずだよ。ルチン……が」 栄養素の名前に自信がないので、小声になった。 「そうだ。それに、蕎麦は江戸時代から食われてたって」 前にテレビで見た情報を、思い出して付け加える。 「残念。うどんは室町時代からです」 茜は、せせら笑った。すっかり勝ち誇った顔をしている。 僕はくちびるを噛みしめた。 他に何かないだろうか。魅力的な情報が。 「もういいから、早く向こうのうどん屋行こうよ」 茜が、横断歩道を渡りはじめた。 その後ろをついて歩きながら、僕は、蕎麦に申し訳が立たなかった。
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