決断

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決断

「僕は、自分の屋敷を追い出される時に子どもらしく必死にあがきました。その時に僕は言ってしまったんです。『屋敷に残るためならなんでもします』と、言ってしまったんです。抜け目のない父は、そのことを覚えていました」  少年は額を龍の大きな額に押し付けた。 「『龍を殺して、その血を私に飲ませろ』と、言われたのです」  人と龍の間に沈黙が生まれ、焚火の音だけが残る。 「僕はきっと……龍を殺すために生まれてきたのです」  振り絞るように出された声は、ほとんど消え入るようだった。  やがて、龍が口を開いた。 「お前にくれてやる命も……教えてやる名前もない」  龍と少年は離れた。  少年は泣いていた。 「選べ……ジークフリート。お前はもう、何も持たない少年ではない」  少年は口を震わせ、銀の龍を見上げた。 「いら……ない……です」  ぽつりぽつりと、少年は思いを吐き出していく。 「名前なんていらない……僕は……僕は何も持っていなくても……名前なんてなくても……生きているんだ」  少年は声を振り絞った。 「僕にはあなたを殺せない」  少年は背を向けて湖を去ろうとした。 「そういうことは、我の目を見て言え」  振り返った少年の目には、銀の龍の宝石のような瞳が映った。太陽の光がそのまま宿っているような輝きが、少年に向けられていた。 「少年、以前話したことがあるな……我は、龍は名がなければ存在できないと。しかし、人はその限りではない。お前に施された呪いは、必ずしもすがる必要はないものだ」  龍はずいと少年に顔を近づけると、「目を閉じよ」と告げた。少年はそっと目を閉じた。
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