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帰還
少年は、幼少期を過ごした屋敷の前に立っていた。二人の門番が驚いた表情で少年を見ると、片方が屋敷内に駆け出していく。少年が屋敷に入ろうとするのを門番は制止し、少年もそれを受け入れた。やがて、門番が屋敷の扉への道を開けた。
少年が固く閉ざされた扉に手を押し当てると、扉は少年に答えるかのように勝手に開いた。少年の父親が立っていた。
「爪も牙もない獅子の子を崖から突き落としたつもりだったが、這い上がってきたのは悪魔だったか」
「ただいま帰りました、お父様」
少年は深くお辞儀をすると、父親は目を細めた。
「獅子も悪魔も我が家には関係ない。力があるかどうかが肝要だ。お前に今、真の名を返そう。名を取り戻したなら、同時にその宿命も思い出すだろう」
少年は震えた。この父親がおよそ慈愛とは程遠い存在であると分かっていても、少年はこの冷酷な男に愛されたかった。
名前を返された少年は、屋敷を出て以来流すことのなかった涙を流した。
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