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追放
――少年は捨てられた。15にも満たない少年、何も持たざる少年……魔術の才も武術の才もないと見放され、実の父に屋敷を追い出されてしまったのである。
「お願いします! なんでも、掃除でも、お使いでも、なんでも、なんでもしますからっ! ここにいさせてください」
必死の願いだった。顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる少年の姿を見ても、その父親は表情を変えなかった。。
「これを持ってどこにでも行け」
少年の父はそれだけ言って、5年は生きていけるだけの金貨の入った袋を床に放った。ジャッ、という音がして、少年は胸に重たいものを感じた。
「拾え」
少年が拾うのを躊躇していると、さっさとしろ言わんばかりに低い冷たい声で命令した。
「拾え」
二度目の命令でようやく震えた手を伸ばした。
うつむいて袋を抱きかかえる少年に対して、父親は最後に言葉を贈った。
「何も持たないお前に、名は必要ない」
父親が何かの呪文を唱え始めると、少年の意識が一瞬途切れた。そして、意識が戻ったかと思うと少年は目の前にいる父親の名前が分からなかった。確かに、胸の奥底では目の前にいる人が父だと分かるのに、誰なのか分からなかった。そして、彼は自分自身の名前も分からなくなっていた。
少年に分かるのは、ここにいてはならないということだけだった。
先に父親が外に背を向け、続いて少年が外に歩いていく。屋敷の扉は、少年が出た途端に速やかに閉じた。
少年は既に泣いてはいなかった。
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