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花の章②
正樹が目覚めるともう既に時計の針は8時をまわっていた。
「いけねー今日はスタジオへ行く日だった。」
正樹はバイトを掛け持ちしていた。今日はスタジオでミキシングの補助の仕事が入っていたのだ。
‥さてパンでも食べて、一走りするか。‥
台所に行くと、ユキが立っていた。
「ごめん、もうすぐできるからね。」
「ああ、びっくりした。身体のほうは大丈夫?」
正樹はめんくらった。なぜかユキの台所姿が妙にはまっていたからだ。
ユキはフライパンから出来上がったハムエッグを皿に移し、こんがり焼けたトーストを差し出した。
「ユキ、美味しいよ。料理は得意なのかい?この味付けはおれが子供のときに食べたお袋の味だね。」
「そう、喜んでもらえて良かった」
ユキはきらりと微笑んだ。
正樹は食事を終えて、コーヒーを飲みながら言った。
「そうだ、これからスタジオまで仕事に行くんだけど、一緒に来るかい?」
「うん、記憶も戻らないし、何か刺激があればいいかもね。」
「じゃあさっそく準備して行こうか。」
正樹はバイクのアクセルをふかし、スタジオへ出発した。
後ろにはユキがしっかりと正樹の腰を握りしめていた。
‥なんだか照れくさいな。‥
‥でもほんとに変わった女の子だな。何か今風じゃないっていうか‥
まあ考えていても仕方ないか。
正樹は冬道を疾走する。
雪は若干積もった感じだが、街路樹にはまだ白いものがちらほら見える。
しかし正樹の心はあったかかった。
これから何か楽しいことが起こりそうな予感があった。
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