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花の章③
正樹は仕事先である室田スタジオへ到着したのは既に10時をまわっていた。
第二スタジオからロン毛で髭面で穴だらけのジーンズを履いた男が出てきた。
「佐々木さんすみません。これからセッティングします。」
佐々木と言われた男は返答した。
「正樹くん、大丈夫、大丈夫11時にお客さん来るから、それまで時間合わせてくれるかな?」
佐々木はこのスタジオのミキシングスタッフのリーダーであった。過去にはプロのミュージシャンとして活躍してた時期もあったが、一発屋のような存在で本人もやる気をなくし、活動の場は縮小していき、今は知人がオーナーであるこのスタジオの雇われとして参加していた。
「正樹くん、その子は?」
佐々木はユキを指して尋ねた。
「すみません。知り合いなんですが、今日はついてきてもらって」
「なかなか可愛い子じゃないか?このー色男!」
佐々木は正樹の腕を小突いた。
「じゃあ準備頼むねー」
佐々木は正樹に仕事を押し付けると外に出た。
‥佐々木さんは喫茶店で一服かな。‥
その間に編集の仕事、一件片付けるか‥
正樹はキーボードを一台取り出した。
そしてミキサールームへ入った。
ユキは打ち合わせ室に置いてあるキーボードをいじり何かを歌っていた。
‥なんて声なんだ。美しい‥
まるで天使だ‥
正樹は完全に我を忘れていた。
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