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2 ★
※注意※
ライトですが、中年男性(モブ)×理央(主人公)の濡れ場があります。
苦手な方はご注意ください。
これから理央が会おうとしているのは、SNSで知り合った中年男性だ。若い男とセックスがしたい男を探して、適当なやつがいれば声をかけてホテルへ行く。それを週二回ほどやっている。
待ち合わせには、カフェから歩いて少しのところにあるマンションの前の電話ボックスを指定している。公衆電話から電話をもらい、合流したらおっさんと並んでホテルへ向かう。
援助交際と指摘されても否定はできない。金には困っていないが、金は腐らないから渡されたら受け取っている。
しかし、理央が中年男性と寝る理由は金じゃない。性的に好きだからだ。
おっさんを漁って金がもらえるなんて、こんな旨い話はない。
もちろん、中年男性なら誰でもいいわけじゃない。理央が選ぶのは、四十代後半から五十代前半の身綺麗な男だけだ。わざわざ電話ボックスを待ち合わせに指定しているのは、相手の清潔感を事前に確認するのに便利だから。
まず、スーツじゃなければ無視して帰る。小汚いやつ、デブ、性癖のやばそうなやつ、無茶を要求してきそうなやつも無視して帰る。こいつは許容範囲だと思ったら、ようやく満面の笑みで手を振る。
理央がカフェに通い始めたのは、窓際のテーブル席なら電話ボックスにいる男がスーツを着ているかどうか見えるからだった。
今晩のおっさんは合格だった。中肉中背で、着ているダークグレーのスーツも上質に見える。
会釈もそこそこに近くのホテルへ入り、理央はシャワーから戻ってきた男をベッドの縁に座らせた。そして、裸で床に跪き、男の腰に巻かれたバスタオルを唇で食んで開いていく。
「上手いのかい?」
「どうでしょう。そう言われますけど、本当のところはわかんないですね」
笑う男の手に導かれるように、理央はまだ柔らかい男の性器に舌を這わせた。
「んぅっ、っ」
「君みたいな子にしてもらうのは初めてだよ……」
「悦い、ですか?」
「見てるだけで出してしまいそうだね」
顔をまじまじ見られては「可愛い」、体中を撫で回されては「綺麗だ」と称賛される。褒められるのは心地いいし、最近は言われ慣れてしまい謙遜することも止めてしまった。
ただ、どれだけ褒められても、肯定してくれる言葉は受け入れられない。どうせベッドでテンションをあげさせるためのリップサービスだ。自分が可愛いなんてありえない。褒めそやされるたびに気が滅入ってくる。
おっさんからしたら若いだけで可愛く見えるのかもしれない。自分の一物を咥えている顔なんて見たら、愛着も増すだろう。
「挿れてあげるから、四つん這いになって」
「ね、前から、してもらえませんか?」
「可愛いこと言うんだね。前からが好きなの?」
「ん……、抱きつけるから好き……」
捻くれていることは自覚済みだ。
中学二年生の時点で、褒められるよりも欠点を指摘される方が好きだった。欠点には自覚があるし、指摘されると、その人がちゃんと自分を見てくれていると実感できて嬉しい。
「挿れるよ……」
「ぅ、あっ、あっ、中、きもちい……っ」
「本当に、可愛いね……」
さっきからうるせぇな――。
今夜の男は嫌いな容姿ではないし、セックスも至ってノーマルで、正直言って当たりだ。なのに腹が立つ原因は、理央の脳裏にある。可愛いと言われるたび、なぜか小一時間前に見た日向の顔が頭を過る。
「はあ、可愛いよ……」
まずい。鳥肌が立ってきた。だって、可愛いというのは、ああいう男のことをいうのだ。
「あっ、あっ、っ……、ね、可愛いより、好きって、言ってもらえません?」
理央は肉を感じる首に腕を回し、トロくさい律動を繰り返す男にねだった。
「恰好いい、低い声で、聞きたい」
「そういうのが好きなのかい?」
耳元で囁かれると射精感が増すのは確かだが、同時に虫唾も走る。耳に吹き込まれる言葉の気持ち悪さに堪えて堪えて、やっと、続けてやって来る瞬間的な快感に浸れる。
「っ、俺も、俺も好きです……っ」
まあ、自分の声で射精なんてしていると、変態を自覚して多少落ち込むが。
相手には必ず、「好きだ」と言ってくれるよう頼んでいる。性欲や金銭欲を満たすための援助交際では、理央のような要望は珍しいらしい。サービスでやっているわけじゃないが、ウケがいいようでリピーターが多く、理央が選り好みをしても客が途絶えたことはない。
翌日も急な誘いが入った。臨床実習が長引いて、いつも通りの時間に待ち合わせとはいかなかったが、悪くなかったおっさんからの誘いを無下にするのももったいなくて、都合をつけて電話ボックスへ向かった。
「また誘っていただいて、ありがとうございます。嬉しいです」
にっこり笑い、男の袖を掴む。今日は問題なく行為に浸れそうだった。開口一番に「今日も可愛いね」なんて言われても、まっ先に日向の顔が浮かぶことはなかった。今日は日向に会っていないからだろうが、この調子だとしばらくカフェに寄らない方がよさそうだ。
「裏通りのホテルでいいですか?」
うなずいた男に他愛ない話を振りながら、いそいそとホテルへ向かう。
電話ボックスからラブホテルは、歩いて三分程の距離だ。マンションのエントランスと個人経営のビストロを通りすぎ、その隣にある裏通りへ続く細い道を入る。この辺りはいつも人通りが少なくて有り難い。理央もおっさんも、二人で歩いているところは誰かに見られたいものじゃない。
「理央さん?」
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