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「そんなこと言われてもっ……なんかあったら頼ってって言ったわよね!」
「うん、ごめん」
今日は、圭と静香が住んでいたマンションを引き払う手続きに来ている。史哉としては静香が望むならそのままにしておいてもよかったのだが、思い出は家にあるわけじゃないからと言って分譲マンションを売りに出した。
土曜日だから手伝うと奈津子もマンションに駆けつけてくれたのだが、つい自分たちが結婚するに至った経緯を説明するうちに、圭の家のことまで話が及び、静香の自殺未遂まで知られてしまったのだ。
「生きてて、よかったわよ……ほんと」
「私もそう思う……死ななくてよかった」
「ま、三途の川渡ろうとしたら、圭が止めてるだろうけどね!」
しんみりとした空気を払拭するように奈津子が涙を拭いながら言った。たしかに静香が死のうとするのを圭がよしとするはずがない。
「そろそろ業者が来る時間だぞ」
引越準備は終わっているし、あとは段ボールを運んでもらうだけだ。と言っても家具や電化製品は処分するため、そこまで荷物も多いわけではなかった。
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