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ちょうど話が途切れたところで、インターフォンが鳴り響いた。引っ越し業者が着いたのだろう。
奈津子が対応してくれていると、ツンと静香が袖を引っ張ってくる。
「どうした?」
「あのね……これだけ向こうの家に飾ってもいい?」
静香がバッグの中に入れた写真立てを取り出した。圭と幸太、それに静香で撮った写真だ。
申し訳なさそうに言うのは、史哉への義理立てだろう。
「当たり前だろ。あ、でも……寝室はやめような。まぁ、見られて興奮するならそれでもいいけど」
「ちょっ……史哉っ!」
静香の頭をくしゃりと撫でてやってきた業者の対応をした。幸太にとって圭は父親だ。もちろん史哉にとっては大事な親友とも言える相手だし、静香にとっては亡き夫。
(見せつけてやるのも悪くない……って思う俺は、心が狭いな……)
本当に圭には敵う気がしないのだ。
好きな女と一つ屋根の下で暮らしながらも、その身体を欲せずにただただ無償の愛情を注いでいた圭に。どうやったら敵うだろうかと考えている。
圭以上に、長い時間をかけるしかない気がする。圭のような愛し方はできないけれど、自分なりに愛し続けることはできる。
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