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第一章
第一章
「あいつ、上司から勧められて見合いしたらしい。結婚するんだと」
銀行に勤めて三年目の春。
話があると呼び出されて仕事帰りに向かったバーで告げられたのは、思ってもみなかった一言だった。
静香は自分を落ち着かせるように、胸に手を当てる。違う違う、と自分に言い聞かせていても、胸のざわつきは消えてはくれない。
二十一歳という若さにしては大人びた顔を切なげに歪めた静香は、肩まである真っ直ぐの髪を後ろに払い、真横に座る彼──戸澤圭の次の言葉を待った。
「あいつって……」
まさかとは思う。だって彼は圭と同じ二十五歳。そして静香と同じ入行三年目だ。
年齢的に、結婚はまだ早いだろう。けれど圭が〝あいつ〟と呼ぶのは彼しかいないと静香にはほとんど確信があった。同期で仲のいい自分たちだからこそわかってしまう。
耳心地のいいリズムで刻まれるジャズが止まったタイミングで、カウンターの隣に座る圭がグラスビールを煽った。
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