謎の家政婦

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謎の家政婦

 早朝ピンポーンと玄関のベルが響く。今日から家政婦がやってくる。なんと驚くな! テレビ番組で当選したのだ。毎日来てくれるという権利をゲットした。  キャッチフレーズはその名も「掃除洗濯料理なんでもお申しつけください」。  俺は家事が大嫌いだ。そして、懸賞が大好きだ。無料が大好きだ。    どうせなら美人がいいな。どこかで期待していた。とうとうその人とご対面だ。ぱっと見は地味で服装も地味だ。眼鏡がやぼったいのだろうか? 服装のせいだろうか?なんとなくはずれをひいたような残念な気持ちになっていた。どこかでメイド喫茶のかわいい子を期待していたのかもしれない。 「お邪魔いたします。家政婦の新城めぐりと申します。守秘義務は絶対にお守りします」    品の良さを醸し出す地味な女はどこか少し不気味なオーラを出していた。一言でいうと暗い。無口だ。若いのだと思うが、歳はわからない。短時間の契約の中で実に見事に家事をこなす様子を見ていると、家政婦としては有能なのかもしれない。    実はこう見えて俺の実家は金持ちだ。俺の親は有名企業の社長をしている。俺は父親の会社の子会社の社員なのだが、親父から記念パーティーに女性を連れて来いと言われている。恋人でも友達でもとりあえず女性と来るように、昨日、電話があった。    俺に女友達はいない。誘える人もいない、やはりここは、あの女しかいないのか……。    家事するだけの家政婦だけど、ジャージっていうのはいかがかと思う。かわいいかっこうをしたら、あの女はかなり変わるような気がする。ふりふりのエプロンをこの人に提案したい。    いつも、規則正しく俺の家にきてくれる新城さん。朝の一時間は俺だけの嫁だ。正確な包丁さばきで朝食を作り、完璧な掃除は部屋が見違える。彼女の髪は長い。一つに結んでいて、上下ダサいジャージというのも不思議な空気しかない。なぜそのような格好をしているのか、少し気になる。もしかしたら観察対象の若い女性が他にいないから気になるだけなのかもしれない。    俺は少し、緊張した。ろくに話したこともないが、彼女と知り合いになって1週間程度で急にお誘いするのもどうかと思いながらも勇気を振り絞る。   「今度の日曜日バイトしませんか?」    彼女は無言で振り向いた。   「もしよかったら、会社のパーティーの付き添いで来てほしいのです。もちろんお金は払います」    すぐに家政婦は答えた。   「大丈夫です。何時から何時でしょうか? わたくし、他のお宅でも仕事をしておりますので」   「夕方5時からの立食パーティーです」   「もしよろしければ美容院代、衣装代はこちらが支払いますので、当日昼に一緒に来ていただけませんか?」   「承知しました」    俺は詳しくもないが、とりあえず美容室を予約し、そこの紹介でパーティードレスをレンタルすることにした。    日曜日、デートのように二人で出かける。まさかの街中でも上下ジャージの彼女だが、顔立ちはよく見るときれいだ。   「ご結婚されていたりするのですか?」一応聞いてみた。   「独身です」    その一言に、何となくほっとした。    美容室で髪をセットしてもらい、衣装をチェンジする。彼女の変貌が楽しみだった。育成ゲームで育てているような感覚だろうか?   「お待たせしました」  何時間も待った甲斐があった。  目の前の女性は、もはや別人でモデル並みのスタイルの良さに目を奪われた。彼女にはコンタクトをしてもらうことにして、今日は眼鏡は封印だ。美容師さんの腕の見せ所だろうか? 髪がいつもよりも艶やかで妖艶だった。目はぱっちりしていて、体は細い。色白のお姫様だ。    俺はこんな逸材を目の前にして好きになってしまった。このようなことををひとめぼれというのか? こんな極上の美人を目の前にしてひとめぼれをしない男のほうが珍しい。    美人の彼女と街を歩く。少し鼻が高いような気分だ。本当は1時間だけの俺の家政婦なのだが、俺としては、今日だけの契約彼女みたいなものだ。    外国人の客もいて、国際色豊かなパーティーだ。新城さんに突然英語で話しかけてきた、客がいた。この外国人客は失礼にもほどがある。新城さんがいくら美しいからってジャパニーズガールに話しかけるな。だいたいそんなに早い英語がわかるはずないだろ。    えぇええ? 新城さんはネイティブが如く英語を話す。めっちゃ流暢な英語。発音きれいだし、外国に住んでたのだろうか? 新城さんは意外にも美しい英語を話す教養豊かな女性だ。これ、英語教室の先生やってたほうがいいんじゃない? 家政婦やっている場合じゃないでしょ。英語はほとんど話せない俺だが、聞いている限り、多分だけれど専門的な話をしているようだ。    外国人の客は愉快な顔をしてご機嫌で去っていった。    実力で就職活動に失敗した俺は、親の会社にコネ入社はしたけれど、親のすねをかじらず自立しているつもりだ。マンションだって自分のお金で借りているし、一人暮らしだってはじめた。しかし、給料は安く、あまり貯金もない。つまりお金がないので、意外と節約生活だから、正直無料の家政婦はありがたい。さらに美人家政婦とは嬉しい事実だ。            
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