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「ああーん!
もう、分かんない!!」
私は、今朝、気合を入れて巻いてきたセミロングの髪を両手でグシャグシャとかき乱す。これは、私の子供の頃からの癖で、29歳になった今でも、イライラするとついやってしまう。
「くくっ
相変わらずだな、佐山
ほら、これやるから落ち着けよ」
スーッと椅子のキャスターを滑らせて近寄って来たのは、同期の柏崎 哲哉。入社直後の研修の時から、出来るオーラ全開だった上に、その最上級のルックスでキャーキャー群がる同期の女子を周りに侍らせてた嫌なやつ。
その柏崎が差し出したのは、明らかに苦そうな黒光りする缶コーヒー。小さく書かれた『無糖・ブラック』という文字が私の想像を裏付ける。しかも!プルタブが開いている!!
「いらないわよ。こんなの」
私はその缶を彼に突き返す。
「なんだよ、
人がせっかくやるって言ってるのに。
あ、もしかして、間接キスとか気にしてる?
これ、開けただけでまだ飲んでねぇから、
安心しろよ」
「っ! そんなの気にしてないし!!
とにかく、これはいらないの!」
やっぱりこいつ、最低!!
「しょうがねぇなぁ。じゃあ、こっちやるよ」
そう言ってまた椅子を滑らせると、自分の机の1番上の引き出しから小箱を取り出した。
「ほら」
と机の上に置かれたそれは、某有名ブランドのチョコレート。
「何、これ?」
「何って、チョコだけど?」
そんなことは分かってる。
「これ、どうしたの?」
「ん? バレンタインの残り」
「はぁぁぁ!?
意味、分かんない。
何で、そんなことできるの?」
こいつはやっぱり、最低な男だ。
「何で? 別に俺がくれって言ってもらったわけ
じゃないし、向こうが勝手に押し付けたものを
俺がどうしようと俺の自由だろ」
ああ! もう! やっぱり、こいつ最低。
「そうかもしれないけど、
私は貰いたくないの‼︎」
私はそのチョコをスーッと椅子を滑らせて、彼の机の上に置き返した。
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