お金が…ないっ！

マジで？

空っぽの札入れのスペースをじっと見つめる。

金、が、ねぇ…

いや、待てよ？

俺、確か今日は金が要るからって今朝、コンビニでーーー

おろせなかったんだ。

先にATM使ってる婆さんがやたら時間掛かってて昼食いに行った時にでもどこかでおろせばいいかって…

忘れてたわ。

顧客からの無理難題な電話に対応しててメシ食う間もなくて持ってたカロメかじりつきながらそのまま後処理して…

で、今に至ると。

いや、待てよ？

落ち着け、俺。

カードで支払えばいいんじゃね？

レジ横のクレジット対応の表記を確認して財布からカードを出…せねぇ。

財布、入れ換えてきたんだったわ。

夕べ、家で缶チューハイ飲みながら録画してたお笑い番組見てて…

笑った瞬間に缶チューハイ倒してテーブルビチャビチャ。

で、財布もビチャビチャになって…

いつもと違うの持ってきたんだったわ。

詰んだわ。

いや、唯一、免許証、移し変えてるだけマシか？

スッカラカンの財布に静かに納まる免許証を親指でひと撫でする。

「お客様？」

「ああ…すいません。えっと…」

どうする？

このピンチなんとかしなきゃだろ？

なんか、なかったけか？

なんか支払いに使えるものが…

あっ、そうだ。

「スマホ決済とか…」

「はい、大丈夫でございます。」

おっ、出来んじゃん！

こんなこともあろうかとチャージバッチリしておいたしスマホスマホとーーー

ぁあ？

俺はお約束ポーズよろしく、スーツの上着をパタパタパタと叩いてみる。

うん、ないな。

上着の内ポケも全部ないわ。

そして、ケツポケも確認するけどやはりスマホはナシ、と。

あっ…

テーブルに置いたままだわ。

昼、トラブってた件で会社から万が一連絡来たらって…

スーツから出したっけ。

まじかぁ…