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翌日の夕方には旦那さんが迎えに来て、無事に梓と陸は帰って行った。
可愛い甥っ子が帰ってしまい、シーンと静まりかえった部屋に一人。
この、静けさが苦手なのよね……
誰か、ルームシェアしてくれないかな?
安奈ちゃんから連絡が入り、身支度を整えて出かける事にした。その店には制服があるらしいけど、念のためお気に入りのワンピースを選んだ。夜の蝶……30歳の初体験である。ドキドキが止まらない。大丈夫かしら。
約束の時間より少し早めに、名刺に書かれた場所へ行くと、目的のお店の前にスーツ姿の男性が立っていた。
この人、お店の人……?
「あの…… 初めまして。私は安奈ちゃんの友達で、秋元楓と申します。今日、バイトで伺いました。安奈ちゃんいらっしゃいますか? 」
男の人は、私の顔をしげしげと見た。
「安奈は店にいる。君がバイト?経験なさそうだけど大丈夫なのか? 」
見た目でバレるとは……
「やっぱりわかりますか?初めてなんです。とても緊張して…… 」
私は、冷や汗をかきながら下を向く。
「君には向いてないと思う。安奈に話してくるから、ここで待ってて 」
「え?あのーー 」
男の人は、お店の中に入ってしまった。お店に入る前に断られるって……
金欠なんだけど…… でも、無理してもしょうがないか。帰るかな……
とりあえず男の人が出て来るまで待っていた。
お店から出てきた男の人が、
「お待たせ。じゃあ行こうか 」
ん、行こうかって、どこ行くの?
私が不思議な顔をしていると、
「俺のこと、見覚えないか?安奈の兄だけど 」
え?えー!?
安奈ちゃんのお兄さん。
そうか、兄の同級生で中学の時、生徒会長やってた、あの?
「お兄さんだったんですね。お店の人と間違えて、大変失礼しました 」
お兄さんは、微かに笑いながら、
「俺は直ぐわかったけどね 」
「すみません。緊張し過ぎて…… 」
お兄さんの後をついて行くと、車があった。
「乗って?食事に行こう 」
「はい…… え?」
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