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「それより何を隠してるの?」
俺の後ろを気にするように遠慮なく覗き込んでくる。
そんな状態でバレるよりは潔く渡してしまおう。
持っていた花を差し出した。
「これ、やるよ」
「これは…お前の気持ちだと思っていいのかな?」
その言葉に軽く頷いた。
「…そう。随分、王道な花を選んだね」
俺が手にしているのは『真っ赤なバラ』だ。
言わずと知れた花言葉を持つ。
「俺は花言葉なんか詳しくないからな…」
「本当に?さっきのクイズの時、全部知ってそうだったけど」
「た、たまたまだよ、たまたま!」
「ふーん……でもさっきの花から選ぶことも出来たのに何でバラに?」
「いーから、とっとと受け取れよ」
未だ受け取ってもらえない俺の想い。
何も与えられずにいたこいつの花はやはりもう戻らないところまで散ってしまったのだろうか。
「後でちゃんと受けとるからそんな顔しないで」
「今…受け取れよ」
「それは出来ない。ちゃんと全部聞かせてもらってからじゃないと。僕をこんなに待たせたんだから、少しくらい待てるよね?」
頬に伸びてきた手にスリスリとされる。
そしてその言葉に大人しく頷かされるのだった。
「いい子。それじゃあ二人きりでゆっくり話を聞きたいんだけど…家来れる?」
こいつは家の都合で一人暮らしをしている。
だから家に行けば正真正銘の二人きりだ。
これがただ話をしたいだけの家へのお誘いでないことくらい俺にだってわかる。
「店番、聞かないと…」
先程すでに確認してはいたが、こうなることを期待していたと思われるのは恥ずかしくて嘘を付いた。
「お願い。今日は僕のために断って」
長年向けられてきた視線のはずなのにいつもより強く感じるこいつからの想いに負けた。
「うそ……もう、出来ないって言ってきた」
「嘘付くお前も正直なお前も…可愛いよ」
満足そうに笑うこいつに手を取られて歩くように急かされる。
誰かに見られてたらとは思ってもその手を振り払えなかった。
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