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中学の頃はあまり店の手伝いがさせてもらえなくて、たまの邪魔もとい手伝いが楽しくて仕方なかった。
あの日も店先でチョロチョロしているとこに来たこいつに得意気にした助言。
この大恥のお陰で俺は店番が苦手になった。
今では助言を求められてもほとんどしない。
その代わりに花言葉を教えて、お客に選ばせた。
「その真っ赤に染まる顔が可愛いくて、僕は一目惚れしたんだよ。この人から真っ赤なバラを貰いたい、って」
ずっと何故こいつが俺を好きなのかと疑問に思ってきたが、まさかの失敗談がこんな想いを生んでいたとは思いもよらなかった。
今の俺としては不幸中の幸いとでもいったところだ。
「知ってたんなら聞くなよ」
「もしお前の解釈が変わってたら…って思って確認したかったんだよ。でも変わってなくて嬉しいよ」
腕を握っていた手が下へと降りてきて花を持ってる俺の手を掴んだ。
やっと受け取って貰えるのかと手を開くとそのまま指を絡め取られ握られた。
「おい…ここ外…」
「わかってる。でもこれでも抑えてるんだよ、わかって」
俺達の間にある一本のバラが何とか俺達を二人だけにさせないよう頑張ってくれていた。
………
……
…
家に着くとすぐにバラはその存在を消して俺達は二人きりになった。
ドアが閉まりきるより早く俺の背中は壁に押し付けられ、口は塞がれて、こいつは少し強引に俺を求めてくる。
「っん、はぁっ…ばかっ、ここ…まだ玄関…」
「ここまで我慢した僕を褒めて欲しいくらい」
絡んでいた手を握る力は少し痛いくらいだ。
こいつの想いの強さを感じられているみたいで俺は気にならない。
しかし未だ二人の手の間にある花が気になった。
「こいつが可哀想だろ」
握られていた手を軽くきゅっきゅっと締めて何のことを指しているのかを伝える。
こいつの視線は俺から外れて花を見た。
「…大切にしろよ」
「お前は僕を我慢させたいの?それとも何も考えずに貪る獣にしたいの?」
「普通に花を大切にしろって言ってるだけだろ」
ため息を付いたこいつに解かれる。
なくなった体温が恋しくて靴を脱ぎ一歩踏み出すこいつに後ろから抱きついた。
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