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「まだ、ここも玄関だよ」
少し嫌みを言われるがそれも仕方がない。
自分の言ったこととしてることがこれだけ矛盾しているのだから。
「ほら、早くお花のこと終わらせて僕にお前をちょうだい」
抱擁を解くとすぐに中に入っていったあいつが『あっ』と声を上げた。
すぐに追い付いた俺に申し訳なさそうな顔をしている。
「僕、花瓶持ってなかった…」
「あぁ、じゃあ後で俺のやるよ。とりあえずペットボトルか少し背が高めのグラスとかねーの?」
「それなら」
すぐに綺麗なグラスが渡された。
ただの花瓶よりこっちのほうがむしろ見栄えするような気がする。
俺が適当に花を飾っていると今度はこいつに後ろから抱き締められた。
耳や肩に掛かる息が熱い。
こいつの想いは先程のままということが伝わってきた。
「それにしてもどうしてつぼみのなの?少しでも長く持つように?それともお前の気持ちはまだつぼみ程度ってこと?」
指で少しもたげたバラのつぼみを下からチョンチョンと触っている。
それを見ていると俺の心までくすぐったい気持ちになった。
「まさか、この花が散ったらお前の気持ちまでなくなるってことじゃないよね?」
随分変なところに飛躍したこいつの考えに笑っていると、花ではなく俺の頬を押し始めた。
拗ねているらしい。
拗ねた恋人の機嫌を取るための提案を思い付いた。
「じゃあ散り切る前にまたここに呼べよ。そしたらその都度新しいのそこに差してってやるから」
「じゃあ花束にしたい」
「そんな頻繁に店番断れるわけねーだろ」
「でも少なくとも散るまでには来てくれるっていう約束は今したからね」
首もとにキスが落とされる。
それがこれからの関係の始まりを告げる合図だった。
赤いバラのつぼみの花言葉『純粋な愛に染まる』。
その言葉の通り俺の心はどんどんこいつの想いに染められていった。
それが今の結果だ。
そして今度は身体までも。
これから先もずっとこいつに染まっていたい。
それは花が伝えてくれるだろう。
散る、という形で。
おわり
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