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たとえば、〈貧民〉と認定されたときから、救急車は有料になる。〈貧民〉の医療費の自己負担割合は、六十五歳から四割になり、七十歳から五割、七十五歳からは七割になる。
要するに、貧乏な年寄りは早く死ね、ということだ。
ご丁寧なことに、死ぬ手段さえも、政府から与えられる。〈貧民〉の認定と同時に、安楽死の装置が体に埋め込まれ、いつでも自分の意思で発動できるのだ。
「それより、裕一、どうした?」
ふさぎこんでいたおれに、親父が問いかけてきた。裕一というのがおれの名前だ。
「どうした、って、何が?」
「何年ぶりかで、突然帰ってきて。何か困ったことでもあるんじゃないのか?」
「いや……なんでもないよ。ずっと帰らなかったから、たまには顔ぐらい見せたほうがいいかと思ってさ」
嘘だった。
おれは東京で派遣社員として働いている。
同棲している彼女も派遣だ。
晴美という名前のその彼女が妊娠した。これが二度目だ。前回は中絶した。今回は産みたい、と晴美は言う。しかし、産前産後の期間に加え、せめて一年だけでも育児のために休ませるとなると、おれの給料だけでやっていくのはむつかしい。
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