貧民

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 五年ぶりに故郷に帰ってみると、年老いた両親が〈貧民〉になっていた。  会社をクビになり、お金が続かなくなったのだという。 「どうしてだよ? 定年後も、同じ会社で続けて雇ってもらえるんじゃなかったのかよ」  夕食の席でおれが問い詰めると、六十四歳になる親父は、きまり悪そうに頭をかいた。 「坐骨神経痛というやつでさ。薬はもらってるんだが、足が痛くて、ときどき歩くのもままならなくなる。それで会社をおはらい箱になってな」 「そんな……。確か法律が変わって、七十歳まで、雇用を義務づけられてるはずだろ?」 「それは、あくまで健康な社員の話。まともに働けなくなった社員までは面倒を見てくれんよ」 「だけど……」  おれは暗澹とした気分になった。  二〇××年の現在、年金が支給されるのは七十五歳からだ。  生活が苦しくてそれまで待てない人は、七十歳までなら、減額されるのを承知の上で、繰り上げ受給という制度がある。  だが実際には、六十代で生活に困窮する人も多い。そういう人には、通称〈貧民〉の認定を受けることで、六十歳から年金をもらえる制度がある。ただし、それと引きかえに命を投げ出すことになる。
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