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Die Putafrauen【お掃除婦人達】
そして、そんな事のあった次の朝には驚くべき事に、もう既に我が家に沢山の職人さん達と凄腕の Die Putafrauenが隊列を組んで Der Erste Stockの改修へと、やって来ていました。
午前10時きっかりに、コンディトライへやって来たこの頼もしい一団は、おのおの物々しい仕事道具を身に付けて、ほぼ10年間は使われずにいたDer Erste Stockへと螺旋階段を上って行きました。
そして早速に職人さん達の手によって、Der Erste Stockの全ての壁と天井が新しく塗り直されていきますよ。
一方、Die Putafrauenは号令のような歌を歌いながら、それに併せて完璧に無駄のない動作で秩序正しく酢で窓を磨き、ビールにオイルを垂らして古い家具達を全て運びだし磨いてピカピカにして、ザワークラウト一掴みを埃臭くなった古い絨毯に撒くと山羊の毛のブラシでそれを丁寧に擦ってから Der Hofに広げて干していきます。
“Gemoje!Ich bin Butzfraa!Guuuude!Ich bin Butzfraa!Genaacht!Ich bin Butzfraa!”
“Nun,Schrubbe!schrubbe!schrubbe!Schrubbe!schrubbe!schrubbe!”
”Gemoje!Ich bin Butzfraa!Guuuude!Ich bin!Genaacht!Ich bin Butzfraa!”
“Nun,Schrubbe!schrubbe!schrubbe!Schrubbe!schrubbe!schrubbe!”
毎年の Der Frühjahrsputzの時には、もちろんローゼマリーもハンネローレも二人掛りで家中を綺麗に掃除しますが、さすがにお掃除婦人達の手際のよさは、もはや別格です。
お店に来たお客さん達が、この様子を興味深げに見ながらハンネローレに何が起こったのか質問して来ます。
そのたびにハンネローレはこの館が遂に下宿屋になる事を一寸嬉しそうな顔で、それでも戸惑った様子をしながら大げさに説明するのでした。
そしてローゼマリーの方はと言えば、店での接客をしながらも、その合間に職人さんやお掃除婦人達に、お茶やお菓子を出したりして、私との大事なミルク休憩も忘れて忙しそうに、店や台所や階段を一日中セカセカと走り回っていました。
その日の夕方には椅子が6脚張り替えのために運ばれて行き入れ替わりにスプリングの効いた新しい寝台のマットが届き、それの後には触れると音のしそうなくらいにパリパリに糊の効いた高級なリネンのシーツを Klaraが何枚も何枚もその華奢な腕に抱えて、お城からローゼマリー達のところへとやって来ました。
「あらあら大変ね。 シーツはこれで足りるかしら。どこに置けばいい?」
クラアーラは改装中のトーネンガー館を、やはり興味深く眺めると重そうに玄関の石の階段を上ってきます。
「クラアーラ、ありがとう。 沢山のシーツね。とりあえず台所の机の上に置いて貰えるかしら?」
ローゼマリーは玄関の入り口で沢山のシーツを半分受け取ると、クラアーラと一緒に台所へ行きます。
そして、彼女に一緒にコーヒーでも飲まないかと誘いました。
すると、クラアーラはとても残念そうな顔をして、
「ありがとう、嬉しいのだけど今日は Der Am-Mainkranzを、持って帰って来る様にと言われているの。今頃は多分エリザベート様が城の居間で、この御菓子の到着を楽しみにしながら待っているはずだから急いで帰らないといけないのよ」
「領主夫人の御注文の Der Am-Mainkranzは、もう用意しているわ。どうぞ店の方へ来て。それじゃあ、落ち着いたら、また遊びに来てね」
「ええ、そうするわ」
クラアーラは笑顔でそう答え、忙しそうな様子でDer Am-Mainkranzの入った箱を、両手に大事そうに抱えると、慎重な足取りで元来た道を城へと戻って行きました。
それから何日か経って Der Erste Stockの改装も、殆ど終わってすっかり落ち着いた昼下がりの事です。
お店ではローゼマリーもハンネローレも忙しく働いています。
私、ラニイは手持ち無沙汰で散歩にでも行こうかと、のんびりと考えていました。
すると…。
Das Posthornが鳴る音がしてトーネンガー館に栗色の癖毛に、まだあどけない少年の顔立ちをした郵便局配達員が、郵便局の象徴である黄色地に黒の襟と肩と袖口には白の縁取りがされて真鍮の釦が2列に並んだ、腰には房の付いた黒い帯を巻いてある制服を几帳面に着こなし白いズボンに長くて黒いブーツを履いた姿で、少し緊張気味の顔をしてやって来ました。
そして彼こそが、Klaraの弟の Sebastianです。
栗色の髪と、どことなく憂いのある雰囲気を漂わせた顔立ちが、お姉さんと同じですよね。
Frau Tönenger!Hier kommt den Brief.
惚れ惚れするように張りのある声に、この Sebastianになら飼われてもいいなぁと、私、ラニイが彼の足もとに擦り寄ろうとしていると、お店の奥にいるハンネローレに代わってローゼマリーが受け取りに出てきました。
すると、Sebastianは足元の私にも気付かないくらいに真面目な顔をして、いつもより恭しく四角張った上に物々しい青い封蝋で封印してある大きな封筒を、皮の鞄の中から取り出すとローゼマリーに差出します。
あの封筒とこの郵便配達員の様子から想像すると、どうやら通達を実行しないと罰金刑も在りうる程、重要な役所からの大事なお知らせみたいですね。
気に成ったのか、ハンネローレも掃除の手を止めて作業場の中から出てきました。
一方、差出人を確認したローゼマリーは、あらあらという顔をして私の方を少し困った顔をして見ています。
「ローゼマリー、誰からの手紙なの?」
「帝国愛玩動物管理官史からよ。たぶん、ラニイの猫予防注射の、お知らせじゃないかしら?」
“Nanu? Neeeeeeeein nein !”
いやだ、いやだと言いつつも一応説明して置きますと帝国愛玩動物管理官史所属の Das Tierheimの建っている Am-MainNeetは、中央駅である Am-Main Hbf.の西側の地区で、中央駅からは Die Straßenbahnに乗り換えてから約15分位で到着する場所にあります。
最近増え続け大問題となっている、若年無業者の社会適合訓練と愛玩動物達の救済を目的として設立された、Das reichder Fabel内で一番大きなDas Tierheimがあり、かく言う私ラニイもこの保護センターからハンネローレとローゼマリーに貰われていきました。
因みに我が帝国内では愛玩目的の動物の売買は禁止されていて元の飼い主が飼えなくなったりした愛玩動物や、貰い手のない生まれたばかりの動物達は、この動物保護センターに一旦すべて集められて登録され帝国愛玩動物管理官によって審査され合格した里親の元に、面接を経て貰われていく事になります。
ちなみに DerTierarztは私達の町にはいないので私達の飼い猫の予防接種は、この動物保護センターで行われる事になります。
ハンネローレは通知書に真面目な顔をして目を通し終わると急いでどこかに電話を掛けていましたが、それが終わるとローゼマリーに向かって一仕事終わった、というような顔をして言いました。
「さあ、明日の午前10時に予防接種の予約が取れたわよ。Der ErsteStockの補修工事も、もう一日掛かるらしいし丁度いいから明日もお店はお休みにしましょう。ローゼマリー、明日、動物保護センターまでラニイを連れて行って来て頂戴正式通知が来た以上、一刻も早くラニイには予防接種を受けさせないと!それが大切な飼い主の義務だもの!私は補修工事様子を見ながら明日は今日に引き続いて、お店と作業場の清掃と整理をしているわ」
その言葉を聞いて、私ラニイは大きな声でこんな風に鳴きましたとも。
“Unsinn,Erzähl doch keine Opern! SchnurreSchnurren Miau!”
そりゃ、確かに予防接種は私達の義務ですけどね。
通知が来てから半年以内に受ければそれでいいのですよ!
急に明日の午前中なんて、心の準備も毛並の準備も全然出来ていないじゃないですか!
なんで、ハンネローレはこうもせっかちなのですかね。
あの、酷く痛い思いをする事になるのはハンネローレじゃなくて、この
私、ラニイなのですよ!
全く、こんなに話を強引に進める飼い主の元で従順な飼い猫なんて、やっていられませんよ!
かくなる上は、この2,3日間どこかに家出でもして…。っと、思案していると…。
“Selbstverständlich!”
と、なぜだかこちらも嬉しそうな口調のローゼマリーに急に持ち上げられて、なんてことでしょう!
そのまま、ローゼマリーの部屋に連れて行かれた上、猫用ハーネスにリードまでもが付けられて、あっという間にローゼマリーのベッドの足に繋がれてしまいましたよ!
“Miau!Das gibt es doch nicht! Miau! Miau!”
その夜の私は完全に不貞腐れて、お気に入りの猫専用茶碗Die alte Brunnenschüsselに、まるで私のご機嫌を取るかのように気前よく並々と注がれたミルクを一口も飲む気になれませんでしたとも…。
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【後書き】
Die Putafrauenの唄はヘッセン弁でお送りしております。
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