Hexenturm【魔女の塔】

1/1
前へ
/54ページ
次へ

Hexenturm【魔女の塔】

371563b0-5f79-4ebf-861c-580299b5f72e  Brunnenissy(ブリュネンイシー)の町は、Das Reich(寓意譚) der Fabel(帝国)の丁度真ん中あたりにある小さくてとても綺麗な田舎町。  Rosemarie(ローゼマリー) Beckenbauer(ベッケンバウアー) は今年18歳になったばかりの女の子、性格は勝気で少々お転婆さんなのですが太陽の光を吸って豊かにうねる長い巻き毛の金髪と青い瞳は Das Christkind(クリスマスに降りてくる精霊)のように美しいと町に住む誰からも言われてしまうほどの、いわゆる上級美少女。  絵に例えるなら、ティツアーノのLa Bella Gatta(美しい雌猫)あれの眼を青くしたと考えて!  そう猫!  猫!  それはもう一緒に暮らしている私から見ても、ほれぼれしちゃうほどです。  これは差し詰め、そんなローゼマリーとEin Becken(蹲踞(つくばい))の物語と言ったところでしょうか?  さて、さて、どうか…。 “Ist mir doch egal.(まあ…いいけど、) Schnurre(ゴロゴロ) Schnurre Miaaau.”(ニャアアアアアアアン)  申し遅れましたが私の名前は Chadrany(シャドラニイ)略して Rani(ラニイ)と、お呼び下さい。  ローゼマリーと一緒に住んでいるシャムネコです。  猫です。  犬じゃないので帝国政府に対する税金は、もちろん払っていませんとも!  顔が黒くて4本の足も黒くて尻尾も黒くて、あとは白。  はい純白ですとも!  さて、私とローゼマリーの住むこの町の規模はというと、まあねぇそりゃあ、小さいほうだけど…。  でも、色とりどりの化粧漆喰で美しく装飾されたDas Fachwerkhaus(白壁木組結構建築住宅)が建ち並ぶ姿が壮観なブリュネンイシーの、ど真ん中にはDer Brunnenissier(ブリュネンイシーの) Hexenturm(魔女の塔)が異様な風貌で建っていますよ。  はい一応、ここの名物なのです。  あしからず…。  古い頃からある塔で中に閉じ込められた魔女が出られないようにと、地下の0から数えて屋根までの10層に分かれた厚い厚い内壁の牢獄、そして、その外の見た目も古いワインの瓶のような形になっている不気味この上ない塔。  ただならぬ妖気を醸し出して城主様の住むお城の隣に、なんか偉そうに聳え立っていますよ。  ガラスのワイン瓶の形に地下に造られた石造りの冷たい絶望の空間、虚ろに開いた地獄の飲み口のような形の魔女の塔の地下牢獄の入り口にはDas Angstloch(鬼胎穴)と呼ばれる不気味な穴が一つだけ、そこに突き落とされたら猫どころか蟻ですら出てこられない造り。  大きなワイン瓶に落とされた猫なんて…ああ、想像しただけで身の毛がよだつ…。  そこにはEine alter Füchsin(年老いた九尾)mit neun Schwänzen (の雌狐)(*22)が、閉じ込められていたらしいんですけど、ローゼマリーのお婆さんが生まれる何年か前に大きな雷と共に空に向かって逃げ出したって話でね…。  その時には轟く雷鳴と悲鳴のような笑い声が、どんよりとした低い雲に反射するように響き渡り Die Turmspitze (塔のてっぺんの風向計)mit Wetterfahne (と薔薇の)und Rosette(花型飾り)が弾けるように割れて、それを聞いた街の人たちが一斉に Der Hexenschuß(魔女の一撃:ぎっくり腰)になったっていうんだから、なんとも禍々しいじゃありませんか。  なんでもローゼマリーのひいおばあさん Hildegard(ヒルデガルド)も、その魔女の一撃で一週間もベットの中から離れられなかったっていう話です。 …おや、誰か…。 “Rani,komm! Eine Pause Machen!”  (ラニイ おいで!一休みをしましょう!)  あら、ローゼマリーでした。  私のことを呼んでいますね。  とりあえず Die Milchpause(ミルク休憩)みたいですね。  ではでは、御免あそばせ行ってきます。  やわらかな午後の日差しの中で、ローゼマリーが私に手を伸ばします。  頭を撫でてくれる仕草は優しくて思わず目を細めて喉を満足気に鳴らしてしまいます。  暖かく立ち込めるミルクの香りに包まれた、私の一番好きな時間。  そう、私の午後の休憩の時間は子猫の頃から決まってミルク…。  だから午後の三時は私の大切なミルク休憩なのです。  ローゼマリーの方は、可愛らしい紅茶茶碗に入れたDer Schwarzer Tee (牛乳たっぷり)mit viel Milch(の紅茶)  Na ja.(ふぅむぅ)  東洋ではこのお茶のこと Röter Tee (紅茶)なんて、呼ぶらしいですね…。 “Ist mir doch egal.(まあ…いいけど、) Schnurre(ゴロゴロ) Schnurre Miaaau.”(ニャアアアアアアアン)  ローゼマリーには現在、両親はいません。  彼女のお母さんの Frau Anna (アンナ・)Beckenbauer (ベッケンバウワー夫人)は、2年前ローゼマリーが16歳の時に病気で亡くなってしまったの。  ローゼマリーによく似た綺麗な金髪を今風な短めの髪型にして、誰にでも親切で誰にでも笑って挨拶していて、何に対しても有能なお手本みたいに素晴らしい人でした。  ローゼマリーが赤ちゃんの時に夫の Herr Heinrich(ハインリヒ・) Beckenbauer(ベッケンバウワー氏)を亡くしてから、同じく子連れの未亡人となった妹の Hannelore(ハンネローレ)の店の金銭的な援助もしながらローゼマリーと従妹の Patricia(パトリシア)を育て上げたという Sicherlich Eine(まさしく肝っ) Mutige Mutter(玉母ちゃん)。  そして、今現在 Die Berufsbildende(職業教育)schule(学校)を卒業した後、ローゼマリーはアンナの妹である叔母で Die Konditorin(コンディトリン)でもある Hannelore(ハンネローレ)が営む小さなこの町の Die Konditorei(パティスリーとカフェを併設した店舗)で叔母の後を継いで Die Konditorin(コンディトライの女性製菓職人)に、なろうと頑張っているところ。  残念ながら私ラ二イは猫につきパトリシアのキツイ言いつけで、お店の厨房には入れません。  もし、万が一入っているところを見つかりでもしたら、餌抜きの厳しい罰が待っているんですから…。  そんなの嫌でしょう?  でも、こうして決まって三時の休憩の時間になるとローゼマリーと私は、お店に裏手あるこの石畳の敷き詰められた Der Hof(壺庭的空間な裏小広場)の一角で至福の Eine Pause(一休み)を楽しむのです。 「さあ、ラ二イ! 貴女のお気に入りの Der alter(デア・アルタァ) Brunnenschüssel(・ブリュウネンシュッセル)に今日は特別多めにミルクを入れたわよ。召し上がれ!」  ローゼマリーは嬉しそうにそう言うと、今日は確かにミルクが沢山入っているのであろう猫専用の古い陶器のお椀を、私の鼻先に持ってきます。  でも、これ Die alte (デイ・アルテ)Brunnenschüssel(・ブリュウネンシュッセル)なんて、なんか厳めしい名前が付いていますけど、なんとまぁ汚ったないお椀ですよ。  子供達が土遊びで作った泥のお椀を、そのまま高温で焼いて無理やり陶器にしたような、くすんだ茶色で飾りも色つけもされていない、こんな古いお椀なんてさっさと捨ててしまえばいいのに…と、猫でも思うような代物です。  まあ、ベッケンバウアー家の皆様はケチ…じゃなくて物を大切にする御一族ですから…。 “Ist mir doch egal.(まあ…いいけど、) Schnurre(ゴロゴロ) Schnurre Miaaau.”(ニャアアアアアアアン)  ただねえ。 もっともまあ、そりゃぁ…所詮は猫のミルク専用の茶碗ですからね。  こんなもんでも、まぁ仕方ないかとも思ったりもしますよ。  どうせ私達猫なんて犬と違って税金も払っていませんしね…。  それともローゼマリーは私が schusselig(そそっかしい)とでも、言いたいのでしょうか?  まあでも、さすがに alter(古い)なんて、わざわざ名前に付いている茶椀だけあってローゼマリーのひいおばあさんのヒルデガルドが、ずいぶんと大切にしていた品だとか。  この猫専用 Die alte(デイ・アルテ・) Brunnenschüssel(ブリュウネンシュッセル)は私やローゼマリーが生まれる前から、このおうちにあることだけは間違いありませんね。 cef89e59-5757-4b82-8f28-36138f571a4c 写真は私物(無断転載は禁止) ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: Frau(フラウ・) Anna(アンナ・) Beckenbauer(ベッケンバウワー) Herr(ヘル・) Heinrich(ハインリヒ・) Beckenbauer(ベッケンバウワー) FrauとHerrは、それぞれ夫人(ふじん)()の意味になります。 ドイツでは紅茶の事をSchwarzer(シュバルツア)Tee(テエ )黒いお茶と呼びます。 参考引用文献 (一) Brueder Grimm Kinder-und Hausmaerchen Band 1, (甲) Band 2, (乙) Band 3, (丙) Alle Rechte vorbehalten C:1980,2001 Plilipp Reclam jun GmbH&Co,Stuttgart Einbandgsestaltung:Birgit Lukowski,Berlin Satz:Reclam,Ditzingen Druck und Buchbinderische Verrabeitung:Ebner&Spiegel,Ulm Printen in Germany 2007 Reclam ist eine eingetragene Marke Der Philipp Reclam jin GmbH&Co. Stuttgart Band 1-3 in Kassette:ISBN 978-3-15-030024-4 (*22) 参考引用文献(一)(甲)P212より参照。訳は作者。 Das Angstloch(鬼胎穴)(きたいあな)は、訳が作者風です。 そのまま訳すとAngst(心配・怖れ)loch(穴)と成ります。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加