王国のスパイ

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「はぁ……わかりました。では、ちょっと待っていてください。今王妃から採取した髪の毛を持って参りますので……」  魔女はそう言って、棚の上から1本の瓶を取ってきました。中にはまだ若かったときの王妃の髪の毛が入っていました。前に王妃がここへ来たときに、こっそり採取したのです。 「えー、では、まず今あなたにかかっている魔法を解きます。それからあなたを王妃に化けさせましょう」  魔女はそう言うと杖をふりました。金色の粉がキラキラと舞い、美しかった偽白雪の姿は、一瞬にしてガリガリに痩せこけた死神のような男に変わってしまいました。いいえ、これが本当の姿なので、戻ったと言うべきなのでしょう。 「そのまま、少しだけ待っていてくださいね」  魔女は王妃の髪の毛をぐるぐると自分の杖に巻き付けました。そして大きく息を吸い込み、大きな声で叫びました。 「はい、いいですか! いきますよ! せっーの!」  髪の毛の巻かれた杖は綺麗な弧を描き、銀色の粉を辺り一面に撒き散らしました。部屋の中は銀色の粉でほとんど何も見えなくなりました。  粉がすべて消えてしまうと、そこには若い王妃の姿がありました。 「ど、どうでしょう?」  魔女は不安気に尋ねました。 「上出来だ。これはもう誰がどうみても王妃だ。気持ちわりっ」 「こんなことをして、本当に大丈夫なのでしょうか?」  魔女はまだ心配でした。 「舐めるんじゃないよ。私はスパイだ。誰にだってなれる。この事を少しでも口外してみるがいい。噂が広がる前に、お前の首は宙を舞うことになるからね」  偽王妃はそう言うと声高らかに笑いました。 「まあ、なんて早い切り替え……恐ろしい人」  魔女には、目の前にいる偽王妃が本物の王妃にしか見えませんでした。  こうして、王国の平穏は保たれました。本物の王妃はというと、その後すぐに息を引き取りました。もちろん寿命のためです。残酷なことに、どこの誰だかわからない老婆が死んでも、誰も気にもとめませんでした。  そして本物の白雪姫はその後王国に戻り、何も知らないまま健やかに成長しました。いや、もしかしたらすべての真実を知る日が来るのかもしれませんが、それはまた、別のお話。 おしまい  
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